第15話
絡んできた不良たちは誰も追いかけて来なかった。
俺は地面に大の字になって伸びている包帯男の脇を通って学校へと向かう。
「うおっ…」
「こっちきたっ」
「道譲れっ」
周りで見物をしていた通行人が、さささーと俺に道を譲る。
海を割って進んだというモーセみたいだ。
「に、西野…」
「ん?」
名前を呼ばれた。
横を見ると、俺と同じ高校の制服を着た男女がそこにいた。
「お前ら…」
松平と鷲崎だった。
二人とも青ざめた表情でこちらをみている。
「見ていたのか?」
「「…」」
二人とも無言でコクリと頷いた。
どうやらこいつら、俺が不良に絡まれているところを見ていたようだ。
一応クラスメイトが絡まれていたのだから、助けに入るとかするのが人情ってモノだと思ったのだが、こいつらにそういうのを期待しても無駄か。
「け、喧嘩強かったんだな…西野…」
鷲崎がそんなことを言った。
声音が震えている。
あれ、ひょっとしてこいつ、びびってんのか?
「ああ、そうだが?」
「「ひぃっ!?」」
俺がちょっと近づくと、二人とも声を引き攣らせて両手で顔を覆った。
うわ、完全に怖がられている。
俺はそんな二人を見てちょっと揶揄いたくなってしまった。
「なぁ、鷲崎、松平。この間はよくもやってくれたな?」
鷲崎の肩に手を乗せながら凄んでみた。
ビクッと鷲崎の体が震える。
「す、すみません…」
消え入りそうな声で鷲崎が言った。
「本当はあの時、ボコしても良かったんだぜ?だが、流石に女子の松平が見ている前でそんなことするのは俺の主義じゃねーからさ?やめてあげたんだぜ?」
「ほ、本当にすみませぇん…」
鷲崎はもはや俺とは目も合わせようとしない。
普段の、すましたイケメンの雰囲気は完全に瓦解している。
自分より強いものに対してびびっている情けない男がそこにいた。
俺はこんなやつに、今まで腹を立てていたのだが馬鹿らしくなっていた。
「に、西野くん…この間のことは本当にごめんなさい…ちょっとした出来心だったの…だからその…鷲崎くんを許してあげて…?」
松平が鷲崎を庇うように、上目遣いにそんなことを言ってくる。
「黙ってろブス」
「へ…」
松平の表情が凍った。
ブス。
多分そんな暴言を言われたのはこれが初めてだったのだろう。
口をぽかんと開けて、時を止めたように固まってしまった。
「今回は勘弁してやるが、お前ら次ちょっかいかけて来たら、そん時はわかってるよな?」
「はぃいい!!2度としません!!」
ペコペコと頭を下げる鷲崎。
「それから、俺以外の奴にもあんなことするなよ?もしちょっとでもそういう噂が耳に入ったら」
「絶対にしません!誓います!!!」
「よし」
これ以上詰めるのは可哀想だ。
俺は鷲崎たちにもう嘘告はしないと誓わせてから、その場を後にした。
何だか晴れやかな気分だった。
俺は軽やかな足取りで高校へと向かう。
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