第7話


翌朝。


「んぅ…」


スマホのアラームの音で、俺は目を覚ました。


「はぁ…」


ため息をついて体を起こした。


全身がダルい。


昨日遅くまで寝付けなかったからだ。


原因は二つある。


一つは、もちろん絨毯の下にあった異世界のことである。


寝ようとしても、ブラック・ウルフとの戦闘のシーンとかが脳裏に蘇ってきててなかなか寝付けなかった。


結局、俺が寝ついたのは朝の四時ごろになってからだった。


現在は七時なので、たった3時間程度しか睡眠を取れていないことになる。


そして、もう一つがコンビニの入り口で絡まれた不良たちとの喧嘩だった。


俺は寝起きのぼんやりとした頭で、昨日のことを思い出す。


俺が顔面パンチで不良たちの一人を気絶ささせた後。


なんと不良たちは俺に恐れをなしたのか、「ひぃいい」という情けない悲鳴と共に逃げ出してしまった。


俺はそのまま当初の予定通りにコンビニで買い物を済ませて、自宅へと帰った次第だった。


「まさか異世界で上がったレベルが現実でも反映されるなんてな…」


不良たちとの喧嘩で分かったのは、俺の身体能力が明らかに向上していることだった。


喧嘩慣れした不良を一気に三人相手取って一発も攻撃を貰わないなんて、並の人間に出来ることじゃない。


ひょっとすると、今の俺は格闘技の大会なんかに出たら結構いいところまで進めるのではないだろうか。


「ま、いいか。とりあえず学校行こう」


身体能力がどの程度上がったのかに関しては、後々把握すればいい。


今はとりあえず学校へ行こう。


俺はノロノロと起き上がって、高校へ向かう支度を始めるのだった。



「完全に忘れてた…」


ホームルームギリギリに登校して、2年B組の自分の席に腰を下ろした俺は、教室中の視線が自分に集まっているのを感じて思わずそう呟いた。


くすくすとあちこちから小さな笑い声や、噂話が聞こえてくる。


そのほとんどが、おそらく俺に向けられたものだろう。


異世界で起きた様々な出来事が衝撃的すぎて完全に忘れていたが、そういえば俺は昨日、松平たちに嘘告をされたのだった。


「西野のやつ…松平に嘘告したらしいぜ…」


「見た見た。あの掲示板に貼られてた動画のやつでしょ?」


「ぶっ。思い出しただけで笑えてくる…」


「鷲崎たちも酷いことするよなぁ」


「でも、嘘告だって分かった時の西野の表情…まじで面白かったんだけど…」


そんな噂話を聞く限り、どうやら俺の嘘告の件は、クラス全体に広まってしまったようだ。


広めたのはもちろん鷲崎たちだろう。


俺がクラスの中心に陣取っている鷲崎たちを睨むと、向こうは下卑た笑みで応えてきた。


「ちっ」 


俺は小さく舌打ちをした後、窓の外に視線をやり、極力教室内には目を向けないようにする。 


間も無く担任教師が教室に現れ、ホームルームが始まった。


言わずもがな、その日は最悪の一日になった。



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