第8話


「連絡事項はこんなところだなー。じゃ、今日はここまで。お疲れさん。また明日なー」


そんなセリフで、担任が帰りのホームルームを締めくくった。


ガヤガヤとクラスが騒がしくなる中、俺はさっさと荷物を纏めて教室を出た。


「はぁ…」


昇降口へと向かって廊下を歩きながら、ため息を吐く。


松平たちのおかげで、今日は散々な一日だった。


クラスメイトたちは、ほぼ一日中俺の噂をしては、こちらを見ながらくすくすと笑っていた。


休み時間にスマホで調べてみたのだが、どうやら俺が嘘告をされる一部始終が、動画に収められて、学校の裏掲示板で晒されていたらしい。


カメラは、鷲崎たちがあらかじめ屋上に設置していたのだろう。


なかなか性格の悪い連中だ。


「ま、今はいいや。忘れよう」


気分悪いことこの上ないが、しかしそんなことを気にしてばかりもいられない。


俺は帰路を歩く足を早める。


途中、コンビニに寄った。


栄養ドリンクを3本ほど購入。


店を出てすぐに、一本目を開けてグイッと一気に飲んだ。


眠気を覚ますためだ。


たった3時間の睡眠時間を、退屈な授業中に多少補ったものの、まだまだ眠気は取れない。


異世界へ行く前に、カフェインを摂取して眠気を覚ましておこうと思ったのだ。


一本を飲んだら、近くにあったゴミ箱に捨てて、残りをカバンに突っ込んだ。


そして小走りで帰路を急ぐ。


帰宅したら、俺は制服から動きやすい格好に着替えて真っ先にダイニングテーブルの下の階段を降りた。


ひょっとすると、今日になったら異世界へと通じる道は無くなっているのではないか、とも思ったが、今日も、洞窟を抜けた先は草原だった。


俺は<亜空間>スキルの中に収納していたミスリルの剣を手に、昨日、ブラック・ウルフに襲われた際に逃げ込んだ小屋を目指した。


道中モンスターには襲われなかった。


今日も、たくさんの武器が放置された小屋は変わらずそこにあった。


「…そういや当たり前のように出入りしてるけど、持ち主はどこだ…?」


小屋の中には、俺以外が出入りした痕跡はない。


一体所有者はどこに行ったのだろう。


まぁ、ひとまずは好きに使わせてもらうことにしよう。


所有者とばったり出くわすようなことがあれば、それはその時だ。


「さて、まずは…」


俺は小屋内をぐるりと見渡した。


並べられている様々な武器。


俺は手始めに、手近にあった槍を手にした。


限られた時間内での異世界探索。


俺は授業中に、今日異世界でやることを決めていた。


「はぁ!はぁ!」


槍を構えて、何度も前方に向かって突き出す。

すると、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。


パンパカパーン!!


<槍術>スキルを獲得しました!


「よし」


予定通り槍術のスキルを手に入れた俺はガッツポーズを取る。


そう。


俺の目的は、この小屋にある武器を利用して、様々な武器のスキルを獲得することにあった。


槍の次は弓だ。


俺は壁に向かって何度も矢を射る。


パンパカパーン!!


<弓術>スキルを獲得しました!


間も無く俺は<弓術>のスキルを得る。


同じ容量で、俺はどんどん武器スキルを獲得していった。


やがて、1時間もする頃には、俺は小屋内にある全ての武器に関するスキルを網羅していた。


「ふぅ…一旦休憩するか…」


少し上がってきた息を整える。


喉が乾いたので、俺はリュックの中に入れて持ってきた栄養ドリンクを飲む。


パンパカパーン!


「ん…?」


頭の中でファンファーレが鳴った。


それと同時に、機械音声が聞こえる。


レベルが上がりました!


「はい…?」


俺は自分の耳を疑った。


レベルが上がった?


ホワイ?


なぜ?


急いで自分のステータスを確認する。




名前:西野壮平

種族:ヒューマン

職業:なし


レベル:10→11


攻撃:220

体力:250

防御:200

敏捷:360



「嘘だろ…」


レベルが10から11へと上がっていた。


それに伴って各種パラメータの数値も上昇している。


なぜレベルが上昇したのだろうか。


普通に考えれば、栄養ドリンクを飲んだ、という行動が契機になっているとしか思えない。


俺は空になった瓶を見つめる。




レベルアップポーションの空瓶×1



「いや、なんでだよ!!」


思わず突っ込んでいた。


先ほどコンビニで購入した栄養ドリンクが、いつの間にかレベルアップポーションに変貌を遂げていたからだ。


どうしてこうなった。


俺は急いで残りの一瓶の栄養ドリンクも確認してみる。


レベルアップポーション×1


「えぇ…」


こちらも同じ変化が起きていた。


ただの栄養ドリンクが、レベルアップポーションへと変化している。


俺は試しに、3本目も飲んでみることにした。


「うぅ…けほっ」


ちょっとむせながらも、全て飲み切った。


パンパカパーン!


直後、頭の中で鳴り響くファンファーレ。


レベルが上がりました!


「本当じゃん」


本当にレベルアップしていた。


ステータスを確認すると、しっかり11→12へとレベルアップしている。


「買った直後に一本飲んだ時は、なんともなかったんだがな…」


もしかすると異世界で飲むことによってレベルアップポーションに変化するのかもしれない。


「これは栄養ドリンクだけのことなのか?それとも他の飲み物でも同じことが起こるのか?」


わからない。


しかし、試してみる価値はありそうだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る