第3話


「は…?なんだこれ…?」


突然目の前に現れた半透明のウィンドウ。


俺は触れようと手を伸ばしてみるが、空を切る。


まるでゲームのステータス画面のようなそのウィンドウは、俺の視点移動とともに動くようだった。


「いやいや、異世界転生ラノベじゃないんだからさあ」


思わずそう突っ込んでいた。


見知らぬ草原。


ゲームのようなステータス画面。


これでモンスターでも出てきたら、それこそ異世界転生モノのライトノベルである。


『ガルルルル…』


「ん…?」


唸り声が聞こえた。


俺は横を仰ぐ。


「あ…」


俺に向けて鋭い牙を剥き出しにしている『そいつ』と目があった。


狼のような見た目の、黒い毛並みの獣。


大きさはちょうど大型犬サイズ。


明らかに俺に対して敵意を抱いているようで、今にも襲ってきそうな雰囲気。



パンパカパーン!!

スキル<鑑定>を手に入れました。



ブラック・ウルフ

種族:モンスター


レベル;30


攻撃:700

体力:650

防御:400

敏捷:1200



またもや頭の中でファンファーレが鳴り響いた。


それと同時に、半透明のウィンドウに目の前の獣のものと思われる情報が表示される。


「ぶ、ブラックウルフ…レベルは、30!?」


思わず大声をあげてしまった。


先ほどの俺のステータスとは桁違いの数値。


もし各種のステータス数値が、本当に強さを反映しているのだとしたら、襲われれば俺などひとたまりもない。


…いや、そうでなくたってどう見ても肉食獣で飼い慣らされていないこの獣は危険すぎる。


「…っ」


立ち向かっても勝ち目がないと判断した俺は、一目散に逃げ出した。


『ガルルル!!ガウガウッ!!』


「まじかよっ!!」


ブラック・ウルフは逃げる俺を追いかけてきた。


4本の足を素早く動かし、猛然と迫ってくる。


「くそっ…逃げる方向間違えたっ!!」


俺は今更ながらに、洞窟の中へと逃げなかったことを後悔していた。


なんの障害物もないだだっ広い草原。


どちらの走力が優れているかは明白であり、これでは追いつかれて食い殺されるのも時間の問題だ。


俺は必死になって足を動かしながら、何か利用できるものはないかと周囲を見渡した。


「あれは…!」


前方に木造の小さな小屋を発見した。


あそこに逃げ込めば、助かるかもしれない。


『ガウガウッ!!』


俺はすぐ真後ろにブラック・ウルフの気配を感じながらも、振り返らず全力疾走で小屋を目指して走った。


「うおおおおおっ!!」


開かれた入り口から、中に滑り込む。


『ガルルルル…』


「はぁ、はぁ、はぁ…」


なんとか小屋の中に逃げ込んだ俺は、素早く身を起こして背後を確認する。


「…?」


どう言うわけか、ブラック・ウルフは、小屋から少し距離をとったままこちらを見据えており、中へ入ってこようとはしない。


小屋の外周をぐるぐる回りながら、それでも何かを恐れるようにして決して近くには寄ってこなかった。



「小屋の周囲に何かあるのか…?」


モンスター避けの結界でも小屋の周囲に張り巡らされているのだろうか。


わからないが、しかし助かった。


命拾いした俺は安堵の息を吐くとともに、改めて小屋の中を見渡した。


「おぉ…これは…」


20メートル四方の、それほど大きくはない小屋。


壁に、剣や槍、弓などたくさんの武器が立てかけてあった。


「すげぇ…本物か…?」


恐る恐る近くにあった剣を手に取ってみる。

ずしりと重い。


白い刃が光を受けて、キラキラと輝いている。



ミスリルの剣


レア度:☆☆☆☆☆


「み、ミスリル…?」


ウィンドウに表示された単語を口にする。


ミスリルといえば、よく異世界ラノベで、最も硬い金属として出てくる名前だ。


レア度星5というのがどの程度なのかはわからないが、しかし、見るからにこの剣は高級そうだ。


「他の武器も見てみるか…」


俺は小屋の中の武器をそれぞれ確認してみるが、どれも星1や星2のレアリティであり、ミスリルの剣が一番レア度としては高いようであった。


「まだ居るな…」


ちらりと外を伺うと、ブラック・ウルフはまだ俺を諦めておらず、小屋の周りをぐるぐると回っている。


「ちょっと振ってみるか」


俺は最悪ブラック・ウルフと戦うことも想定して、剣の素振りをしてみることにした。


「はぁっ!!」


上段に構えたミスリルの剣を、気迫の声とともに思いっきり振り下ろす。


ブォン!!


「おぉ」


風が起こった。


それと同時に、頭の中でまたファンファーレが鳴り響く。


パンパカパーン!!


<剣術>スキルを獲得しました!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る