第2話
クラスの中心的メンバーが仕掛けた嘘告にまんまと引っかかって笑い物にされた俺は、屋上を後にして肩を落としながら帰路についた。
先祖代々受け継がれてきたという、それなりに大きいがしかし古い自宅に帰ってきた俺は、書斎に篭って、本棚から異世界もののライトノベルを取り出した。
現実逃避をするときはこれに限る。
俺は、異世界でチートを駆使して美少女たちに囲まれながらイージーモードの勝ち組人生をまったり生きている主人公に自分を重ね合わせ、しばらく読書に没頭する。
やがて一冊を読み終えた俺は、途端に現実に引き戻され、本を閉じると同時に「はぁ」とため息を吐いた。
「腹減ったな」
書斎を出てキッチンへいき、冷蔵庫から昨日の夕食の夕食の余り物を引っ張り出して温め、もそもそと食べる。
なるべく、松平たちに騙されたことを思い出さないように努めていたのだが、しかし人間の頭とはままならないもので、忘れようとすればするほど、鮮明に脳裏に蘇ってきてしまう。
「はぁ…きっと今頃、笑いの種にされているんだろうなぁ…」
こちらに向けられていた、蔑むような視線が目に焼き付いてくる。
きっと彼らは今頃、醜態を晒した俺のことを、カラオケの個室で馬鹿にしたりしているのだろう。
もしかしたら、このことをクラスメイトたちに吹聴したりするかもしれない。
考えれば考えるほどに気分が重たくなってきた。
「明日学校行きたくねぇなぁ…」
どこからともなく聞こえてくる『その音』に気がついたのは、そんな呟きを漏らした直後だった。
「ん?なんの音だ?」
スー、スーと何か風が抜けるような音が聞こえてきている。
隙間風かとも思ったが、耳を澄ますと窓ではなく、もっと近くから聞こえてくるようだった。
「どこから聞こえてるんだ?」
俺は音の発生源を探して、室内を歩き回った。
やがて、その音はダイニングテーブルの真下あたりから聞こえてくることがわかった。
「確実にこの下だよな…」
俺はダイニングテーブルを動かし、敷かれていた絨毯を退かした。
すると。
「お…?なんだこれ…?」
絨毯の下から現れたのは、床の一部をくり抜くようにして存在している入口のようなものだった。
鉄の板が蓋として被さっており、指を突っ込んで持ち上げるための穴もちゃんとある。
「何か家宝でも隠してるのかな?」
昔のことで記憶は朧げだが、幼い頃両親は、この家は彼らの祖父の代から続いていると言っていた。
つまり確実に築100年は経っている。
何か、家宝的なものが隠されていてもおかしくはない。
「ここまできて開けてみないって手はないよな」
興味をそそられた俺は、重い鉄の蓋を持ち上げて、下にあるものを確認する。
「え…」
予想だにしないものが現れた。
鉄の蓋の下に眠っていたのは、代々受け継がれる家宝などではなく、地下へと続く階段だった。
冷たい空気が、ひゅううと肌を撫でる。
「嘘だろ…この家に地下ってあったの…?」
両親からは、そんな話は聞かされていない。
俺は棚から懐中電灯を取り出して、中を照らしてみた。
階段がかなり下まで続いており、その先に固い岩の地面が存在しているようだ。
「…」
俺は一瞬躊躇したものの、しかし好奇心には勝てず、階段をゆっくりと降りていった。
地下の空気は湿気に満ちていた。
俺は転ばないように恐る恐る階段を降りて、地面に足をつけた。
コオオと不気味な音が前方から聞こえてくる。
「ん?あれは?」
前方に光源らしきものを発見した。
しかも、かなり先まで続いているようだ。
辺りを見渡してみれば、そこは地下室というよりも洞窟といったほうがいいような場所だった。
俺はゆっくりと足元を確認しながら、ごつごつとした通路を、光源に向かって進んでいく。
「…っ」
近づいていくに従って、光はどんどん強くなっていく。
あまりの眩しさに、俺は目を細める。
「は…?」
唖然とした。
通路を抜けた先に、ありえない光景が広がっていたからだ。
「どこだ、ここ…?」
視界いっぱいに広がる緑の草原を見て、俺はそう呟いた。
一瞬錯覚かと思った。
だが、どれだけ見つめても草原は確かに眼前に存在していた。
すぐに理解が追いつかなかった。
なぜこんなところに、青々としただだっ広い草原があるのだろう。
こんなことは不可能だ。
なぜなら、俺は地下の通路を歩いて1分も経っていない。
距離にして、せいぜい数十メートル進んだ程度だ。
こんなところに見たこともない草原地帯があるはずないのだ。
…いや、それよりもおかしなことがある。
「なんでまだ日が登ってるんだよ…」
俺が帰宅した時点ですでに日は沈みかけていた。
しかし、今は太陽は真上にあって、風に揺れる草原を照らしていた。
こんなことが果たしてあり得るのだろうか。
「夢かな?」
あまりに現実味がなかった俺は、自分の頬をつねってみる。
普通に痛い。
そして、夢は覚めない。
「本物、だよな…?」
恐る恐る草原地帯に一歩足を踏み出してみる。
土を踏んだ感触。
しゃがんで、生えている草に触れてみるが、指先に伝わる感触はどう考えたって本物のそれだ。
「意味がわからねぇ…」
結局、出てきた感想がそれだった。
そのまま思考停止して立ち尽くしていると…
パンパカパーン!!!
【異世界探索者】の称号を獲得しました。
ステータスが開放されます。
名前:西野壮平
種族:ヒューマン
職業:なし
レベル:1
攻撃:30
体力:45
防御:70
敏捷:15
スキル:なし
ファンファーレとともに、目の前に透明のウィンドウが現れたのだった。
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