嘘告から始まる下剋上〜自宅に異世界の入り口を発見した俺は、レベルアップで異世界と現実世界を同時に無双する〜

taki

第1話


時間を経るごとに鼓動が高鳴っていった。


俺は今、放課後の屋上にいる。


普段ならとっくに帰路についているこの時間帯になぜこんなところにいるかというと、それは手紙で呼び出されたからだ。


西野壮平くんへ


・大切なお話があります。放課後、校舎の屋上に来てください。

松平陽子より


そんなことが書かれた手紙が、今朝俺の机の中から見つかった。


西野壮平とは俺の名前だから、この手紙は俺に宛てたものだ。


そして差出人の松平陽子とは、俺の所属するクラス、2年B組において一番可愛いと言われている女子だった。


俺はクラスに何人も、彼女のことが好きであると言っている男子を知っている。


そんな人気者に、どちらかというとあまり目立たない俺がなぜ呼び出されるのかと初めは疑問だったが、もしかしたら告白なんじゃないかと思い始めていた。


単なる思い上がりではない。


予兆はあった。


最近松平が、特に用もないのに俺に話しかけたりしてくるのだ。


事務連絡とかそういうことではなく、休日の過ごし方や趣味の話なんかを俺に振ってくるのだ。


どうして急に話しかけてくるようになったのかと戸惑っていたが、これで合点がいった。


おそらく松平は俺のことが好きなのだ。


俺は今日、告白される。


「あ、西野くん。ごめんね、遅くなって」


やがて、松平が屋上へと現れた。


俺はゴクリと唾を飲む。


松平の頬は、心なし赤くなっているような気がする。


「大丈夫だ。俺も今来たところだ」


若干声音が震えるのを感じながらも、俺は言った。


「大事な話って、なんだ?」


「うん、えっとね…その…」


いじらしくも、松平は人差し指を突き合わせて少し躊躇うような素振りを見せる。


俺は汗を握った拳にぎゅっと力を入れる。


やがて、松平が決定的な一言を口にする。


「好きです。付き合ってください」

「…!」


予期していた告白の文句。


俺は思わず前のめりになって「はい!喜んで!」と答えそうになるが、あくまで戸惑った演技をする。


「え…どうして?」


松平と俺は話し始めてまだ、日が浅い。


この場合の反応としては、ちょっと戸惑って見せた方が自然と言えるだろう。


「いきなりでごめんね?でも、私、今のクラスになった頃から、西野くんが好きだったんだよ?」


「そうなのか?」


「うん、だから、付き合ってほしい。だめかな?」


上目遣いに、期待するような視線を向けてくる松平。


俺はあらかじめ用意していた答えを口にする。


「俺でいいなら、喜んで」


これで、俺も彼女持ちだ。


俺は自分が青春勝利者となった瞬間を噛み締める。


と、そんな時だった。


「ぷっ…馬っ鹿みたい」


「え…」


松平の表情が、唐突に豹変した。


先ほどまで、うっとりとした表情だったのが、俺を嘲笑するようなそれに変わっている。


「今なんて…?」


「本気にして…馬鹿じゃないの?まじでキモいんだけど」


「は?」


次々と松平の口から出てくる辛辣な言葉に、俺がポカンとして突っ立っていると、屋上へ数人の生徒が現れた。



「よおおおおおし!!賭けは俺の勝ち!!」

「くそおおおおお!!まじかよおおお!!」


やってきたのは、鷲崎優斗を中心とするクラスの中心的メンバーだった。


皆、総じて俺に向かって下卑た笑みを浮かべている。


「あ、西野くん。おっすおっす」


「あれー、ボヤッとしちゃってどうした?まさか、告白本気にしちゃった?」


「ぷっ。自信過剰すぎない?単なるモブのお前が、松平さんと付き合えるわけないだろ?」


口々にそんなことを言ってくる彼らに、俺は何が起きたのかようやく理解した。


要するにこれは『嘘告』というやつらしい。


嘘の告白をして、了承した相手を笑い物にする最低行為。


俺はまんまと彼らの罠にはまったようだ。


「あははっ!まじでウケるんだけど。私があんたみたいなパッとしないフツメンに告るわけないじゃん」


「というか、陽子は俺の彼女だしな。まだクラスには公表してねーけど」


松平が、学年一のイケメンと名高い鷲崎の腕に自らの腕を絡ませる。


そして、ゴミを見るかのような目で俺を見てきた。


普段は見せないような性格の悪さが滲み出た表情。


これが彼らの本性なのだろう。


「西野くん残ねーん」


「松平さんと付き合えると思って期待しちゃった?」


「嘘告でしたー。俺ら、お前が告白をOKするかしないか、賭けしてたんだよねー」


取り巻きたちが煽ってくる。


「…っ」


俺は付き合っているのが馬鹿らしくなって、さっさと歩いて屋上を後にした。


「いやー、まじで面白かった」


「これだからこの遊び、やめられねーんだよなぁ」


「次は誰ターゲットにする?」


背後で彼らのそんな声が聞こえていた。





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