Ending

【恒星系フレア 第五惑星パーサヴィアランス 大気圏 】


 正体不明の人型ダストとの戦闘で攻撃を受けたアルベルトは気を失ってしまい、宇宙を放浪していた。


 数時間経った頃、惑星パーサヴィアランスが近かった事が幸いだったのか、災いしたのかわからないが引力に引かれ、大気圏へと突入し始めている。


 朦朧としている意識の中、ガタガタと揺れる機体に気が付き、遠くに聞こえるのは機体異常を知らせるアラート音。


 アルベルトの機体はみるみるパーサヴィアランスの引力に引き寄せられ、ぼやける視界に映ったモニターは摩擦熱で鈍い赤色を映し出している。


【警告、機体各部に想定値以上の負荷を確認。機体温度上昇。5分以上現在の負荷が機体にかかる場合、空中分解する確率90%。】


 感情のない声で機体の異常を知らせる機械音声が鼓膜を揺らすが、人型ダストの攻撃を受け、揺らされた脳みそでは正常な判断など出来るはずがない。


「星って……こんなに大きかったのか……。」


 先程まで光り輝く点でしかなかったはずの惑星が目と鼻の先に迫ってきており、惑星からしてみれば、こっちの方が今にも燃え尽きる小さな点だろう。


 テラフォーミングされた惑星には海があり緑が生い茂っている広大な大地を眼下に捉え、惑星の大きさと比べたら、自分はどれだけちっぽけな存在なのかともの思いに吹けつつ、アルベルトはなぜか知らないが惑星と自分の立場が逆転している事に感動を覚える。


 機体異常を知らせるアラート音が鼓動の様に早くなっていき、摩擦熱で装甲板が泡吹きだした。


 機体と同じサイズの小惑星であれば何とか流れ星になって地上にいる人々の願いを叶える為の輝きとして天寿を全う出来るのであろうが、BTは所詮、人間の手で作られた木偶人形であり、石ころのように密度がある訳でない為、空中分解した後は流れ星になる前に消滅するであろう。


 つまり、人型汎用血戦騎兵ブラッドトルーパー単騎で大気圏に突入する能力を持っておらず、現状を鑑みるに惑星がここまで近づいてしまうとライダーにはどうすることも出来ず、アルベルトは大気の摩擦熱で蒸し焼きになるのを座して待っている以外出来ることはない。


 アルベルトはここまでの長いようで短い人生を振り返るが、幼少期も学生時代も軍隊に入ってからも大した経験もせず、惰性で生きていた為、今見ている走馬灯もチンケな物でしかない事に気が付き、冷笑を浮かべた。


「楽しかった思い出どころか両親の顔すら思い出せないとは……本当にクソみたいな人生だったなぁ……。」


 けたたましく鳴り響くアラートに対してどうせこのまま星屑になるというのに危険もクソもないだろうと嘯き鬱陶しいアラートを切る為、手元のコンソールパネルを操作すると全てのシステムをシャットダウンさせる。


 惑星を映していたモニターも消えたことにより、コックピット内には漆黒の空間と一人の息遣いしか感じられない。


 星がない分宇宙よりも暗い空間に一人取り残されたアルベルトは目を開いているのか瞑っているのかすら分からないが、何事も成し遂げることなく終わる残り数分の人生をこの虚無空間で過ごすのも悪くないのではないかと思う。


「……アサヒは無事だろうか……?カイルもアイリスも無事ならいいんだけど……。」


 大した事のない人生だったとしても、最後まで一緒に戦った仲間たちの安否だけは心配であったが、今となっては知る由もない。


「……熱いな……自分の死因が蒸し焼きなんて……流石に想像してなかったなぁ。」


 生命維持装置を切ったことで摩擦熱でコックピット内がサウナ状態になり、機体の振動が大きくなる。


 コックピットに倒れ込み、全てを諦めたその時。


 アルベルトの耳元で小さな声が聞こえ始める。


 身体の限界を超えたことによって聞こえる幻聴だろうと無視していた声は次第に大きくなっていき、仕舞にはコックピットのスピーカーからも声が響き始めた。



“……お願い……生きて。”


「君は……誰?……」


“……みんなを……救って。”


「救って?……俺が?」


“それがあなたの–––……。”


 声の主に心当たりはない。

 だが、どこか懐かしくも感じる不思議な声だった。



「……思い……出した……この声は……。」




“……愛しているわ……アルベルト・アダムス……”





 声の主が囁くと、そこから数秒も経たぬうちにBTのシステムが勝手に再起動し始め、見たこともないシステムが立ち上がる。


“タルパの介入を確認。ブラッドシステム、リブート完了。”


 いつも通り感情の起伏を感じない機械音声が訳もわからないシステムを立ち上げたことを伝えるとアルベルトの意識は途絶えた。



 アルベルトの駆るBT“YZF R25”は摩擦熱で装甲板が溶け原型を留めていなかったが、独りでに背部スラスターを起動させるとその噴射口からB粒子を放出し始める。


 放出されたB粒子は機体を包み込むと青白く輝き始め。


 流星となったBTは大気圏を突破して地上に向かって行く。




………………





 その日、惑星パーサヴィアランス上空に青白い流星が流れた。



 流星は引力に惹かれ、弧を描き惑星へと落ちていく。


 圧縮された高密度のB粒子がパーサヴィアランスの上空に描いた一筋の光は、ダストの侵攻で被害を受け、絶望に暮れ俯いた人々の顔を笑顔に変えていく。


 その光を見た者は口を揃えて「その光は眩く、どこか優しい光だった。」と話した。

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星間戦記 ブラッド・トルーパーズ カミーユ @kami-yu_miyagamiyuya

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