中学生の中野四季は、クラスの中でいじめを受けていた。そしてある日、弁当の中に金魚の骸を入れられ、途方に暮れていたところをクラスメイトの大塚聡に救われる。それ以降、聡はいじめを受け続ける彼女へその都度「彼女がそのときいちばん食べたいもの」を差し出してくれるようになって。どうして、と訊いた四季に、彼は答えた。「——俺、超能力者なんだ」。
心の内に押し詰まる思いを文章で表現するのはとても難しいことですが、この作品のすごい点はまさにそこ。四季さんの思いがすばらしく、そして凄まじく濃やかに描き出されていることなのです。
いじめを受ける痛み、それでも助けを求められない心情、その先で聡くんからもらう、暖かさ。それらが丁寧に綴られていけばこそ、読者は惹き込まれ、共感できるのです。打ちひしがれて下を向くばかりだった四季さんが顔を上げる瞬間に。
「優しい人になれるかな」、彼女が作中で語るこのひと言、本当に染みるのですよねぇ。
人は本当に小さなことで救われるもの。それを教えてくれる素敵なお話です。
(「人、匂い立つ」4選/文=高橋 剛)