的外れな兄弟考察
染井雪乃
的外れな兄弟考察
僕の弟は、変わっている。
いや、変わっているって言い方は適切じゃないかもしれない。でも、僕は弟の考えが今もわからない。
小さい頃は、ありふれた、仲のいい兄弟だったと思う。年の差は一つ。兄弟ってよりも友達に近い関係になりがちな年の差だ。
実際僕は、弟といろいろなことをして遊んだ。トランプとか、ゲームとか。遊んでほしいときに後ろから抱きついてくる癖のあることも、僕の色素の薄い髪で遊ぶのが好きなことも、よく知っている。
兄らしいことも、それなりにした。文字を覚えたら弟に絵本を読んであげるとか、そういうこと。弟は同じ絵本を何度も繰り返し読むのが好きな子どもで、声が枯れるくらい読む羽目になったけど、「玲くん玲くん」って慕われるのも心地よかった。
いつの頃からだろうか。弟が親のようなことを言い始めた。
「玲くん日焼け止めぬった?」
「玲くんサングラスは?」
僕の住んでいた地域は保育園激戦区で、そのせいもあって、僕と弟は、別の保育園に通った。朝の支度をしているときに、「玲くんと一緒がいい」と駄々をこねていた時期もあったくらい。求められていると感じるのは嫌なことじゃなかったけど、毎朝はきついなと思っていた記憶がある。
それが落ち着いて、すんなり自分の通っている保育園に行くようになった頃から、僕の心配をするようになった。
この辺りの話を弟に聞くと、
「どっかで父さんか母さんに玲の病気のこと聞いたから心配だったんじゃない?」
と返ってきた。父さんも母さんも、どんな説明をしたんだろう。とかく弟は、両親よりも、僕の病気に、過敏、だった。少しでも扱いを間違えれば僕が壊れると思っているようなそれは、今も、続いている。
さすがに僕を病弱だと判断したりはしていないけれど、初めての場所に行くとか、炎天下に出るとか、そういうときには、ついてこようとすることもある。
ネットではアルビノであることを隠しているので、そんな話は、誰にもできない。僕は社交性が低いから、リアルに友達がいないし。
ここまでだったら兄思いの弟ですむだろう。でも、僕には理解できない奇妙なことが、小学校入学くらいから、始まった。
小学校に入ると、当たり前だが、勉強が始まる。僕の視力の不利を補おうとした両親により、弟ともに事前学習をしていたのだ。それで、僕は勉強を難なくクリアしていった。
それは、弟もそうなるんだと思っていた。でも、そうはならなかった。
僕は、少し知れば答えを直観する。弟は、そうはいかない。この差が、だんだんと出始めた。
とある塾に、模試を受けに兄弟で行ったら、結果返却のときに、態度が僕にだけあからさまに違ったりとか、学校の先生の態度の違いだったりとか、そういうことだ。
「お兄さんはアルビノなのに、あんなに努力して立派な成績なんだから、おまえも見習って頑張れよ」
そんなことを、中学の担任か誰かに言われているのを、僕は偶然目撃してしまった。僕のせいで、弟が変なことを言われている。こんなの、弟に嫌われたって仕方がない。
仕方がない。
わかっているのに、悲しかった。
ところが、弟の態度は、どこまでいっても変わらなかった。いつの間にか「玲」と呼び捨てにされるようになったくらいの変化だけで、いつも通り心配性で、僕を気遣ってくれる弟のままだった。僕は、わけがわからなくなった。
自分より能力の高い相手。それと常に比べられて、周りから何か言われたら、その相手が憎くなりはしないだろうか。
僕ならなる。間違いなく憎い。口も聞きたくない。なのになぜ、弟は今も僕を心配したり、気遣ったりできるのだろう。
その答えは、わからない。
的外れな兄弟考察 染井雪乃 @yukino_somei
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