神への供物
仲仁へび(旧:離久)
第1話
村のはずれの宮には、神様が住んでいるらしい。
神の姿は見えないけれど、いつでも私達人間を見守っているのだとか。
しかし、神様は気まぐれ。
人間が定期的にご機嫌をとってあげないと、見守ってくれないらしい。
だから私達は、食べ物がなくなった時や災害が起きた時、神様に守ってもらうために、ご機嫌取りとして定期的に供物をささげている。
そういうわけだから、供物として与えられた私は、宮に踏み入れた。
供物になった人間は二度と、宮の外には出られない。
宮から出た者は、今まで一人もいないらしい。
けれど、それでも皆のために、犠牲になる事を決めた。
踏み込んだ宮の中にいたのは、小さな女の子だった。
普通の人間と同じような姿・形をしていた。
誰かが間違って入ってしまった?
混乱する私に、その女の子は「遊ぼう」と言った。
私は、女の子の遊び相手をしながら、周囲をよく観察していた。
しかし、神様らしい存在はどこにもいない。
やがて、小一時間ほど遊んだ後、女の子は「あきた」といった。
「もういいよ」と背中をおされて、宮を出る。
すると、私の視界には、数々の背高のっぽの建物があった。
見た事が無い色と模様の建物ばかり。
頑丈そうで、透明な部品は、太陽の光をうけてきらきら輝いている。
空には鈍色の物体が浮かんでいて、真っ青な背景に白い筋をつけながら、ゆっくりどこかへ向けて飛んでいた。
私は「何が起こったの?」と宮の中にいる女の子に尋ねた。
すると、女の子はこう言った。
今まで人々を守っていたのは私が好きでやっているだけ。
無償の愛を分け与えたに過ぎない。
けれど、大きすぎる力には恐怖がつきまとう。
だから、ずっとずっと昔に、その恐怖にかられた誰かが供物を差し出す事を決めたのだとか。
しかし与えられた側は、その供物をまさか本当にどうにかするわけにはいかない。
幸いにも供物にされるのは、人々の間でやっかい払いされたものばかりだった、だからその供物を、うんと未来の時代に移動させる事にしたのだと。
私も元の居場所に未練はない。
納得した私が、次に女の子に視線をうつした時、そこには誰もいなかった。
女の子は、いいや神様の愛は、これからも供物を生み出し続けるのかもしれない。
でも、そのそのたびに神様は、供物を助け続けるのだろう。
そう思った私は、その場所を見守り続ける事にした。
そして、自分と同じ供物が未来にやってきたときは、記憶の定かでない行方不明者として保護し、戸籍を与える活動を行う事になった。
神への供物 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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