陽光

 綺羅びやかさは暗闇には隠され、街頭と月明かりが綻びを照らし出す深夜2時。継ぎ接ぎだらけの世界の隙間に、我楽多で紡がれた人形がいる。このの成長は或る日を境に止まってしまっていた。身長は伸びず、体重も増えない、ただ昨日と同じ私が連続しているだけである。

 の最も恐れる者は周囲の人々の成長であった。時が止まった自分を傍目に彼らの時は進む。肉体は大人に近付き、精神は成熟して行く。時が満ちれば彼ら学校を卒業し、新たな舞台へと旅立つ、その新天地もいづれは故郷となり、別の世界への跳躍を目指す。は周囲の人々が自分から離れて往く事を恐れた。

 彼は衣装と云うものを知った。自分をより強く、より美しく見せる為の道具である。稚げな四肢を引き摺る彼は真っ先に彼の手足を着飾った。己をより誇大に表現する為の衣装、幼い彼に衣装を買う資金は無かった。彼は廃工場から鉄屑を拝借し、無我夢中で彼の欠如を補った。その我楽多の名を称して、思想と言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短篇】蚕 橘香織 @merlt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る