給料泥棒呼ばわりされてるオペレータだけど、ある日突然ピンと来ちゃいました~戦ってるのは戦隊だけじゃないんだぞ~女の勘編

三谷一葉

ゴミガーに先手を取れ! 空の黒点は災いの印?

 宇宙海賊皇帝デブリが、地球に対して宣戦布告をしてから、一年。

 各国はデブリ率いる怪人ゴミガーに対応するため、宇宙海賊皇帝デブリ対策部隊を立ち上げた。

 怪人ゴミガーには通常の兵器は通用しない。

 どんな刃物も銃弾も、硬い殻に弾かれてしまう。

 宣戦布告から半年間、人類はデブリに抵抗する術を持たなかった。

 宇宙海賊が現れたら、速やかにその場を放棄して、ゴミガーに捕まる前に逃げなければならなかった。

 だが、宇宙博士ソージが地球に漂着したことで、事態は一変する。

 ソージはデブリに故郷を破壊されていた。しかし、ゴミガーと戦う術は心得ていた。

 ソージが開発したパワードスーツを身につければ、ゴミガーと戦うことができる。

 ただ逃げ惑うだけだった人類は、ようやく宇宙海賊皇帝デブリに抵抗できるようになったのだ。


☆★☆


「きびきび働けよ、給料泥棒ども」


 宇宙海賊皇帝デブリ対策部隊オペレータチームの仕事は、黒岩くろいわ茂雄しげお司令官の罵声から始まる。


(まーた始まったよパワハラーブラックめ)


 オペレータのうちの一人、冴崎さえざき沙里さりはこっそりとため息をついた。

 宇宙海賊皇帝デブリ対策部隊の花形は、実際に怪人と戦うエコパワーチームだ。

 エコパワーレッドこと、リーダーの赤西あかにしほむらを中心に、見目麗しい若者五人によるチームである。

 沙里が所属するオペレータチームは、エコパワーチームのための後方支援が主な任務だ。

 過去の戦闘データの解析、被害状況の把握、戦闘で破壊された街の復興支援────など、仕事は多岐に渡るが、主となるのは怪人ゴミガーの出現をいち早く把握するためのモニタ監視である。

 しかし、日本国内でゴミガーとまともに戦うことができるのは、エコパワーチームの若者五人だけだ。対するゴミガーは、日本のどこに出現するのかわからない。

 故に、モニタ監視でゴミガーの姿を確認できても、エコパワーチーム派遣までに時間が掛かってしまう────というのが、宇宙海賊皇帝デブリ対策部隊の課題だった。


「そこのお前、何か文句でもあるのか?」

「そんな、文句だなんてとんでもない。何でもありませんよ」


 眉間にしわを寄せた黒岩と、目があった。

 慌てて愛想笑いを浮かべてみたが、黒岩は大股で近づいてくる。

 これは二時間怒鳴り散らしコースだな、と沙里は覚悟した。


「お前、仕事を何だと思ってるんだ? いつまでも学生気分じゃ困るんだよ。いつもいつも宇宙海賊の後手に回りやがって。尻拭いをする羽目になるエコパワーチームに申し訳ないとは思わないのか」

(尻拭いじゃなくてそういう役割分担だと思いますけどねー)


 ねちねちとした罵詈雑言を聞き流しながら、横目でモニタを確認する。

 黒岩の罵声はいつものことだ。まともに聞いていたら仕事にならない。


「大体さあ、人が大事な話をしてる時はちゃんとその人の顔を見ろって習わなかったわけ? そんなの小学生でもできるだろ。お前、親にまともに躾られてないのかよ」


 モニタの中は至って平和だ。

 賑やかな繁華街。足早に交差点を渡る人々。

 雲ひとつない晴天だ。

 太陽の横に、ぽつりと小さな黒い点────


「何度言わせれば気が済むんだ? ひ! と! の! は! な! し! を!」

「緊急事態発生! 緊急事態発生!」


 耳元で大声を上げ始めた黒岩を押しのけて、沙里は目の前の受話器に飛びついた。

 通話先は、エコパワーチームの司令室。


「こちらオペレータチーム冴崎。S県O市にゴミガー出現の恐れあり。エコパワーチームの出動を要請します!」

「はあ? お前、何勝手に────」

「いいから!」


 黒岩の目が丸くなる。

 沙里は入隊以来初めて、正面から黒岩に反論した。


「近隣住民の避難と、道路の封鎖要請! 早く! また後手に回りたいんですか!」





 沙里がエコパワーチームに出動要請をした、三時間後。

 S県O市に、怪人ゴミガーが現れた。

 宇宙海賊皇帝デブリ対策部隊エコパワーチームは、その日初めて、先手を打つことが出来たのである。



☆★☆


「お疲れさーちゃん。お手柄じゃん」

「ももちゃんもお疲れ~。うーん、お手柄って言うかなんと言うか」


 S県O市の戦いから、二週間後。

 相変わらずの黒岩の罵声を聞き流しながら一日の仕事を終えた沙里は、居酒屋に居た。

 二人掛けのテーブルの向こうには、エコパワーチームの紅一点、桃井さくらが座っている。


「あれさ、なんで気づいたの? 怪人が来るって」


 ジョッキに並々と注がれたビールを一息に飲み干して、さくらが興味津々といった様子で聞いてくる。

 沙里はカクテルをちびちびと飲みながら、困ったように首を傾げた。


「正直さ、あの時ははっきりわかってなかったんだよね。ただ、空の黒い点が目に入った時、とにかくやばいって思って」

「えー、なにそれ凄いじゃん。女の勘?」

「あー、かも。でもねえ、よくよく考えてみたら、あれ、何度か見たことあったんだよねえ」


 空に浮かんだ、黒い点。

 過去の戦闘データの分析を行っている時に、何度か目にしていた。

 空に黒い点が現れた時は特に酷い被害が出ている────だから、気になってはいたのだ。


「やっぱ凄いじゃん、さーちゃん。あのパワハラーブラックも少しは大人しくなったんじゃない?」

「それがそうでもないのよー」


 過去のデータや被害状況の資料などを元に、黒岩に「空に浮かんだ黒い点が、怪人出現の前触れではないか」と言ってみたのだが、


 ───そんなデタラメ信用できるか。今回はたまたま運良くゴミガーが現れたが、もし全く別の場所に現れたらどう責任を取るつもりだ!


「おまけに、ゴミガーは晴れの日に現れる確率の方がずっと高い! もっと冷静に、論理的に考えろ! とかデータ持ってきて力説し始めて」

「そこまで行くともうギャグでしょ。さすがだわー、パワハラーブラック」


 さくらはけらけらと笑った後に、沙里の方へ向き直った。


「ま、パワハラーブラックが何と言おうと、あたしはあんたを信じるからさ。またやばいって思ったら連絡してよ、沙里」




 ────後日。

 空に浮かぶ黒い点は、ある特定の怪人が現れる前兆だということが判明した。

 また、宇宙海賊皇帝デブリ対策部隊オペレータチーム司令官黒岩茂雄が、実は宇宙海賊皇帝デブリの腹心パワハラーであることを、オペレータが見破った。

 パワハラーはオペレータの親友であるエコパワーピンクと壮絶な一騎討ちを演じることになるのだが────それはまた、別の話。

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給料泥棒呼ばわりされてるオペレータだけど、ある日突然ピンと来ちゃいました~戦ってるのは戦隊だけじゃないんだぞ~女の勘編 三谷一葉 @iciyo

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