第18話 NEXT PROLOGUE
祭りのような騒ぎの中、李空は目を覚ました。
「ここは・・・?」
「叔父さんの家だよ」
李空の疑問に答えたのは、京夜であった。
なるほど、ここは弐ノ国戦の後にお世話になった墨桜邸であった。
どうやら宴会の最中のようで、京夜の叔父にあたる次郎が「おかわり!」と空になったジョッキを掲げている。その妻にあたる住子は「飲み過ぎですよ」と冷たい視線を送っていた。
辺りを見渡すと、壱ノ国代表一行の姿も見えた。
「やっぱり海の恵みは最高だっぺな〜」
「だべな〜」
見事綺麗に捌かれた活け造りを摘みながら、海千兄弟が楽しそうに会話している。
「もう、『ウォードライビング』を魚の運送に使うなんて・・」
「まあまあ、そんな細かいことは言いっこなしだっぺな。魚は新鮮さが一番だべ」
「んだんだ。こんなこともあろうかと『サイポイント』をうちに付けといて良かったっぺな」
美波の両肩を叩きながら、海千兄弟が宥める。
美波は膨れっ面のまま刺身を頬張ると、もぐもぐしながら黙ってしまった。
どうやら、魚の美味しさが怒りを上回ったようである。
「ほら、平ちゃん。あ〜ん」
「架純。人前でそういうのやめえ言うとるやろ」
「あら。人前やなかったらええいう意味?」
「かあ〜、めんどい女やで」
箸で掴んだ刺身を差し出す架純と、それを拒む平吉があれやこれやと言い合っている。
そんな2人を眺めながら、
「リア充が滅びれば世界に平和が訪れると思うんだ」
と、魂の抜けきった顔で卓男が呪詛の言葉を口にしていた。
「みちる。李空と京夜の試合どうだった?」
「・・・正直すごかったえ〜る」
「負けてられないあ〜る!」
みちるの左手は項垂れ、右手はやる気を見せている。
「よし、その意気だ!次は頼むぞ!」
身体の調子が戻ってきたみちるの肩を叩き、剛堂が激励を送った。
勝利に沸く者。次の試合に意気込む者。いつも通り騒ぐ者。
いろいろな顔を眺めて、李空は笑った。
「どうした李空?」
「いや、なんだか可笑しくてな」
的を得ない回答に、京夜が頭上に疑問符を浮かべる。
5年前。
あまりにも不平等で無慈悲な神の采配によって、李空の夢は呆気なく潰えた。
己の運命を呪いながら、落ちこぼれとして生きてきた少年の世界は、ある日を境に180度景色を変えた。
友を思う気持ちが神に届いたのか。それともただの気まぐれか。
はたまた運命というものか。
なにはともかく。李空は目覚めたのだ。
「あ!りっくん起きてる!」
目を覚ました李空に気づいた真夏が、うれしそうに声を弾ませる。
「ごーどーさん!改めて乾杯しよ!」
「おう!そうだな!」
剛堂が音頭を取り、皆がグラスを掲げる。
真夏から手渡され、李空も手に取った。
「それでは改めて」
ごほん、と咳払いをし、剛堂が続ける。
「壱ノ国の勝利を祝って、乾杯!!」
「「「かんぱ〜い」」」
からん、と勝利の音色が響いた。
15の誕生日に、突如出航した行き先不明の大船。
新たな仲間や懐かしい友を乗せて、大船はぐんぐんと未開の地を航海する。
若者たちのエネルギーを燃料に、乗組員の意思を知ってか知らずか、大船は進む。
その先にある光景は、若者たちの未来にどのような影響を及ぼすのか。
その答えは、まだ誰も知らないのであった。
TEENAGE STRUGGLE 其ノ壱 にわか @niwakawin
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