終章   暗闇の中で差し伸べてくれたのは貴女の魂の光でした

第1話  悲しくて

 ざっくり言ってその日以降私の心と身体はボロボロ状態となれば完全に寝込んでしまった。


 理由は簡単である。

 ただ単に約ひと月以上も幾ら万年不眠だからと言え休む事無く明け方近くまで母の看護をしていたのに他ならない。

 そしてお昼頃まで寝ていたとしてもそれからは何時もの様に母の介護に勤しみつつ家事……まあそこは本当に最低限にしか出来てはいなかったけれどもだ。


 約二年……いやいやほぼほぼ弥生がこの世を去ったのを境に母が転げ落ちる様悪化の一途を辿ってからはである。

 私のポンコツ心臓と鬱は、まあそれなりにしんどくてもであったのだが、何故か寝込む事もなければ心の殻へ籠る事もなく日々儚くなっていく母の状態だけに没頭する事が出来ていた。


 それは不思議なくらいに、鬱を患って以降の自分の身体では絶対に無理だと思うのにも拘らずだった。


 だがその張り詰め緊張していた糸がプツン――――と音を立てて切れたと同時に私の身体と心はほぼほぼ使い物にならなくなってしまったのである。


 日がな一日ベッドより起きられず、また母の遺骨を見るとポロポロではなくそこはボロボロとなって滂沱の涙を流してしまう。

 感情の抑制が全然効かない。

 これも鬱の症状なのだろうか。

 大分良くなった筈なのに……。


 そしてポンコツ心臓の方はそれはもう見事な壊れっぷりだった。

 二週間遅れで受診をし先生へ母の死を報告しては泣いてしまう。


「あんなにお元気でしたのにね……でもはあ、まだまだお若いのに……」


 母の元気な頃を知っていた森本先生は残念そうにお悔やみの言葉を述べてくれた。

 またそれと同時に――――。


「心不全、まあまだ軽いけれども起こしているので無理はしないで下さいね」


 あはは……やっぱりか。

 どうりでしんどい筈だった。

 

「お母さんは幸せだったと思いますよ。子供達に最期まで看取って貰えたし、ちゃんと介護もして貰えたんだから感謝してると思うけれどなぁ」


 その後つ続いて藤寺先生のクリニックへ受診をすればやはり母の死を悼んでくれた。


「でも本当でしょうか。母は本当に幸せやったんかなぁって。まだまだ寝たきりになってから何か出来てはいない事もあったのかもしれない。もっとちゃんと出来たかも……」

「約二年弱とは言え寝たきりになって褥瘡を作らさへんかっただけでも凄いと思うよ。あれだけの体重減少があれば普通は出来ても当然の所を浅田さんと姉弟さんは頑張って介護をしてきたんとでしょ。だからお母さんも感謝してはると思うで」



 果たしてそうなのだろうか。

 親孝行らしいことを一つも出来なかったと言うのに。

 でももしそうであるならば感謝まではいらない。

 ただ少しでも幸せだと感じてくれているのならそれでいい。

 だけど母を喪った私はどうしようもなく悲しくて堪らない。

 

 最初の二ヶ月くらいは本当にただ悲しくて泣いて過ごしていた。

 幼子ならまだしもちゃんと成人しきった大人なのに、既に親離れしている筈なのに何でこんなに泣いてしまうのだろう。

 最近ではポロポロと泣いている私を見て若干引き気味の弟妹達。

 ああ、涙腺がこんなにも崩壊するなんて思いもしなかった。

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