第11話  稜ちゃんと私達 Ⅴ

「最期のお別れです」

「ママさん有り難うな」

「あっちへ逝ってちゃんと弥生達に会うんやで」

「ママっ、……ほんまに有り難うな」


 生者の侵入を許さないと言わんばかりの自動扉が無情にもそれがぴたりと閉まる寸前まで、また静かにお経を唱えて下さる中で私達は最期の別れを母への感謝を述べていた。



 母が荼毘へと付されている間私達は二階の待合スペースへ案内されればそこには既に二組の家族がその時間を各々で過ごしていた。

 勿論ソーシャルディスタンスで……。


 席へと座り妹がお茶を持ってきてくれた。

 そうして何をする訳でもなく私の心は昨日まで生きていただろう母の肉体が今この瞬間に囂々と燃え盛る高温の炎で燃やされている現実にギュッと鷲掴みされる様な思いを抱く。


 しかし肉体が死を迎えたのだから荼毘へと付すのは当然。


 然も昨今では流行病に罹りそのまま回復する事もなく死を迎えればである。

 最期の瞬間に傍で寄り添う事も出来なければ、最期の別れも出来ずに仄かに温かい遺骨でしか対面は許されてはいない。

 それを思えば私達はまだ幸せなのだと思う。

 でもそれを幸せだと実際に思えるのかはわからない。

 そして母は、稜ちゃんは果たして彼女の人生は幸せだったのだろうか。


 

 僅か28歳で夫と別居をすれば女手一つ三人の子供をほぼほぼ誰にも頼らずたった一人で育て上げた母。

 そこへ女性としての幸せの何もかもを犠牲にしてまで子供へ愛情を注ぎ、まあ多少の行き過ぎな面は確かに存在したけれどもである。

 それでも母なりに精一杯の愛情を注いでくれたのは間違いはない。

 お蔭でそれぞれ三人の子供達は何とか生きていく事には困らないと言うかである。


 今現時点で私だけはまだ自立が出来てはいない。


 それは今直ぐに焦った所で逆効果なのもわかってはいる。

 それでも……。

 


 声が掛けられ母の遺骨を骨壺へと詰めた私達は自宅へと母を連れ帰る。

 長男である弟に抱えられた小さなお骨の入った箱を見て何とも切なくなってしまう。

 本当にめっちゃ小さくなってしまった母。

 何もこんなに小さくならなくてもいいのにね。

 

 この日私達姉弟から親と言う掛け替えのない存在はいなくなってしまった。

 そしてこれからはそれぞれ自分達の足で生きていかなくてはいけない。

 

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