第8話  同床異夢  

 同床異夢……同じ床に寝ながらそれぞれ違う夢を見ることの意から)行動を共にしていながら、まったく別々の事を考えている事。

 また同じ立場や同じ仕事をしている者でも、考え方や目標等が異なっている事。



 最近の私と夫の関係はまさに同床異夢。

 知り合ってから結婚している期間を含めばかれこれ二十年弱。

 それだけ長く一緒にいた私達は余り喧嘩をした事はないとは言えラブラブかと言えばそうでもない。

 何となく一緒に過ごしそして家族となった。

 そこは人並みに色々なイベントやハプニングを体験して今がある。

 それに12歳も年齢差があればそう簡単に喧嘩にはならないものかな。


 当然夫が年上である。

 そして12歳と言う年齢差がある故なのか彼自身包容力もあり私の家族への配慮をしてくれていた。

 だから私も夫にはとても感謝をしている。

 そう三年前に一度大きな喧嘩をしたからとは言え即をしたいとまでは思わない。


 ただし喧嘩の理由は正直に言えばである事は間違いはない。

 でも私の信条としてはまだ離婚へ至らなかっただけ。



 しかし私が鬱を患ってからだろうか。

 最初は何も気にはならなかったし気付きもしなかった。

 と言うよりも私自身の事で一杯一杯だった。

 それは今も余り変わらないけれどもである。

 そう気づけば夫は私の病院への送迎を全くしなくなったのである。


 と病院の待合室で一万円を渡されれば、それで母と一緒にタクシーで帰る様に言われたのが始まりだったのかもしれない。


 ただしあくまでもそれは交通費。

 診療費と薬代は当然私が自分で払っていた。

 今まではお互い共働きだから特に何も思わなかった。

 でも今は?

 今の私は病院に席があるだけの休職状態と言うか働けない。

 だけど夫は変わらずそれらを払ってくれる素振りを見せる事はない。


 まあ休業補償中だから今はまだいい。

 でもそれが終わってもまだ働けなければ……いやいや流石にそこまではないだろうと私は一笑する。

 もう少しすればまた何処か他の病院で准看護師として働いているだろうと高を括っていたと思う。


 そうこの時の私はまだまだ鬱の恐ろしさをはっきりとわかってはいなかったのだ。

 教科書で得られただろう知識と鬱を患っておられた患者さんとのほんの少しだけの係りで、全てとは言わないが大体理解していると愚かにもそう思い込んでしまった厚顔さに、我ながら呆れを通り越して最早何も言う事が出来ない。


 そのまさか八年経っ他今この瞬間でもまだ鬱とは縁を切る事も出来ずにいるんだぞと、鬱を甘く見るんじゃないと八年前の自分へ言えるものならば言ってやりたい。


 そうして夫が仕事より帰ってくるのは何時も深夜前後。

 ただ最初はそこまで遅くはなかった。

 だがこれも気づけば帰宅時間が徐々にと遅くなっていた。

 顔を合わせば、私の気分が良ければ簡単な会話はするけけれどもそれは以前と比べて何か違和感を感じてしまう。

 そう時間が経過するにつれて、私と母の二人二人三脚で通院し鬱と正面から向き合う事もまた労災の件に関しても夫が介入する事はなかった。

 

 少し寂しいようでだが何故か寂しくもなくなったと言うかそんな日常に慣れた頃の事だった。


「ご主人はね」


 色々話す間に夫の事に関しての話題になったのだと思う。

 まあ鬱になってからと言うか、最近一緒に通院しないね……くらいなものだったと思う。

 そんな感じで話が始まれば奥野先生はそこへ思いっきり巨大なミサイルをぶっこんでくれた。


 でもそう告げられた瞬間俄かには信じられない。

 だけど……。

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