第9話  愁苦辛勤  

 愁苦辛勤しゅうくしんきん……思い悩んで嘆き、憂い苦しむ事。


 アスペルガー障害……主に発達障害の一つ。



 病院より帰宅して直ぐに私はアスペルガーについて調べてみた。

 勿論ネット上での診断も、実際よりもかなり甘めに答えたのだが結果は高確率でそれに該当してしまった。

 正直に言ってめっちゃショックだった。

 そしてまさかの発達障害に驚愕が隠しきれなかった。

 

 だがもっと吃驚したのは何時夫がそれなのだと、奥野先生自身が気付いたかである。

 そう驚く事に奥野先生は私の初診の時既に夫の病気を疑っていたらしい。


『典型的でしたしね……』


 何てお言葉まで頂いてしまった。

 今でこそ通院は母と二人なのだがである。

 それまでは通院の度に先生と夫は顔を合わせていた。

 勿論診察室では言葉も交わしている。

 それがあったからこその先生から診た診断結果だったそして――――。


『桃園さん自身の病気とを鑑みてご主人との生活は何かと問題が出てくるでしょう。今はお母様がいらっしゃるから、でも私はご夫婦の離婚を勧めます』

『り、離婚……ですか』

『はい、桃園さんの心と身体の為にもご主人とこれからもご一緒に過ごす事は大変難しいでしょう』


 いやいやだからと言ってはいそうですか……と直ぐに離婚を出来るかと問われれば、答えはNOである。



 一応縁があって私達は夫婦となったのである。

 なのにお互いが病気だから、じゃあ別れましょうと言う気持ちには正直に言ってならなかった。

 それにこの時はまだ離婚する時期じゃないと私は思ったのだ。

 また元来楽天家の私らしく鬱もその内に回復出来れば今度は私が夫を支えてもいいと思ったのだ。


 そう、相手は12歳も年上のおじさんなのである。


 私が48歳になれば夫は60歳の還暦。

 30歳の時結婚へ踏み切った時点で将来は私が夫を介護をしなければいけないだろう事も頭の中では考えていた。


 そこへ発達障害一つが上乗せになっただけ。


 今はちょっと関係がギクシャクしているけれども私の病気が治ればまた元の様になるのだと思っていた。

 しかしこの時の私はまだ何も知らなかったのである。

 夫の奇行は既に始まっていた事を……。


 いやいや始まっていたのではない。

 寧ろ私が知らないだけでこれは最初からだったのかもしれない。


 そうして私が夫の奇行について知るのはこれよりもう少し後となる。

 何故なら夫と向き合う前に私は自分の事で更に心が傷つき闇の中で狂喜を纏う事になるのだから……。

 

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