第4話 風通し?
結局何だかんだと逃げる事も出来ずにほぼぶっつけ本番で穿刺をさせられる事となる。
本当にこんな未熟な看護師が穿刺をしてごめんなさい。
心の中で毎回穿刺を行う患者さんへ謝罪をしつつ不安で一杯一杯だが、その様子を決して
何故なら看護する側が一瞬でも不安な表情と態度で患者さんへ接すれば、患者さんにそれ以上の不安と恐怖を煽る事になってしまう。
患者さんとの信頼関係が崩れてしまうと看護は成り立たなくなってしまう。
そしてそれは穿刺にも言える事。
「はい、少しちくっとしますね」
笑顔で挨拶をし笑顔で穿刺をしたのである。
心の中では手が震えません様に。
ちゃんとシャント内へ針が入ります様に……と懇願しながらである。
でも最初はまだよかった。
穿刺は基本穿刺を行う者とそれを介助する者の二人一組のペアで行われる。
土山さん若しくは武井さんの様にフランクな感じで接してくれる人、そして未熟な私でも穿刺が行える患者さんを選んでは交代し穿刺をさせて貰っていたのだ。
当然穿刺が慣れている他のスタッフの様にサクサクと言う訳にはいかない。
緊張しながらの慣れない穿刺は思ったより時間も掛かる。
それでもペアを組んだ相手が私を緊張させまいと接してくれている間はまだ良かったのである。
そう、私の穿刺と並行して私が感じていた様に土山さんも徐々にこのN病院の異常さにしっかりと気付く様になればで――――ある。
「ここは可笑しいわ。こんな病院他にはないよ」
言われなくともわかっていた。
検査技師が穿刺をしているのもあり得ないし、患者を受け持ち透析の管理と看護をしているのだ。
本来検査技師として心電図の検査はMEの男の子が行っているし、採血等の検査まではわからない。
でも一日中ここにいる日は行っていないのだろう。
そして一体誰が一番先に辞めたいと言葉を発したのかはわからない。
ただ気づけば私と土山さん、そして何故かセンター長となる武井さんまでもが早く辞めたいねと、呟く様になっていた。
土井さんの件に関してはそれから暫くして彼は何も言わずにと言うか、私達末端には何も知らされてはいない。
そうして気が付けば彼は透析センターより姿を消していた。
と言うよりである。
どうやら元々の彼の居場所である臨床検査室へ戻ったらしい。
それ以降土井さんはセンターへ来る事もなければ穿刺も行わないし透析管理もしない。
また休憩室でご飯も食べない。
きっとこの切っ掛けを作ったのは武井さんだと私は思う。
言葉にこそ出しはしない。
下ネタをぶっ込んできても、己が手柄をひけらかしたりはしない。
そこが武井さんのいい所なのである。
多分私達が何気に話しているのを偶々聞いていたのだろう。
でもそのお陰で透析センターを覆う重苦しい空気が少しだけ、それは今でもドンがしっかりと実権を握っているからね。
だけど重い空気は少しだけ軽くなり、センター内は明るくなっていった。
同時に常に抑え込まれていた一番の実害を被っていただろうMEの男の子達も活気が出てきたのである。
だからこそ願ってしまうのだ。
少しでもいい感じに変われる事が出来ればいいと思った。
そう私は一旦就職した以上直ぐには退職をしたくはないと思ったから。
私は身体も重ければ腰も重い。
一度根付いた場所から移動するのは余り好きではなかったのである。
それなのに――――。
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