第9話  疑問 Ⅸ

「はい? ちょ、ちょっと待って。もう一度見てもいい?」

「うん、いいよ」


 土山さんは信じられないと、薄い冊子を何度も見ては呆れ返っている。

 とは言え現状何も変わりはしないのである。

 

 そう時間は無限でなく有限なのだ。


 兎に角私は今まで行ってきた輸血時の管理の手技を土山さんへ完結に伝え、それで間違っていないかを確認した。



「……うんそれでいいと思う。私もその方法と大して変わってないと言うか、ここのやり方で今までよくもまあ何も事故が起こっていない方にめっちゃ驚きやわ」

「うんうん、それは言えてるんよね。じゃあもう一度一緒に輸血時の確認をして貰える?」

「ええよ。輸血抱えての八人受け持ちは大変やから出来るだけ手伝うわ。何かあったら直ぐに声かけてや」

「ありがとー、めっちゃ嬉しいわ。ほんま土山さんだけが頼りやもん」


 そうして私達はそれぞれの受け持ちへと戻れば輸血を行う患者さんへ声を掛け、名前と生年月日に血液型の確認を行い開始前のバイタルを測定し輸血を開始した。


 輸血開始1分後

 5分後

 15分後……とバイタルの測定と患者さんの意識レベルに輸血への副反応の有無を確認すればその都度カルテへ記載していく。

 タイマーをセットし、その時間の合間を縫って残り七名の患者さんの血圧測定に情報収集、透析中の体調変化を見つつタイマーが鳴るとまた輸血を受ける患者さんのバイタル測定を行っていた。

 

 運よく問題もない為30分毎にバイタル等を測定し無事に輸血が終了すれば終了時のバイタルを測定しカルテへ記載した。

 手技的には特に問題もなくまたミスもなかった。

 

 そう終わってみれば特に焦る必要もなかったのかもしれない。


 でも余りにも杜撰ずさん過ぎる看護の在り方に不安が掻き立てられてしまったのである。


 確かに仕事に慣れは禁物だ。

 慣れと言うものは緊張を緩和させれば自ずとミスを生じやすくなる。

 だからと言ってカチコチになるまで緊張してもいけない。

 何故なら看護をする私達が明らかに緊張すれば、看護を受ける側の患者さんの不安を煽りその結果最悪患者さんが看護を拒否若しくは事故を誘発しまい兼ねない。


 因みに前回の輸血を担当していたのは正看護師の赤井さんだった。

 彼女は一時間に一回だけの血圧測定だけで何も不安に思わなかったのだろうか。

 それともそれが正しいと思い仕事をしたのかは今も確認が出来てはいない。

 些細……少なくとも私にしてみれば些細な問題ではなく大きな疑問だと思う。


 ただこれはあくまでも八年以上前の事。

 今現在あの透析センターでの輸血管理がどうなっているのか、私には知る術はないと言うか逆に怖くて知りたくはない。

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