第5話 疑問 Ⅴ
制度上臨床工学技士は透析を行う際の穿刺をする事が出来る。
しかし臨床検査技師は抹消の静脈での採決は可能だが透析時の穿刺は行えない。
土井 剛……臨床検査技師科長として恐らくN病院で十年以上勤務をしている。
そして噂と言う漏れ聞こえた話によれば、彼は少なくともこの十年間はこの透析センターで従事している。
勿論最初からではないだろうがしかし数年前より制度上行えない筈の穿刺を行い、また透析患者を受け持ち透析管理と言う看護を行っていた。
手技は経験の浅い私よりもしっかりと手馴れている。
だがその慣れた一連の動作が土井さん自身の努力の賜物であったとしてもである。
制度を無視し行ってはいけない分野へ違法に足を踏み入れた事は重大な問題である。
ただこれは間違いなく土井さん一人だけの問題じゃあない。
何故なら一検査技師……幾ら検査科の科長だとしてもである。
十年もの間堂々と、それこそこのN病院は透析をメインとしていたのだ。
言わば病院の花形みたいな存在。
そう院長は透析の患者さんの診察の為に週に何回もセンターへ来ていた。
勿論他のDr達もである。
また看護部長は今でこそだが少し前まではこのセンターの師長でもあったのだ。
これを病院ぐるみと言わずして何と表現すればいいのだろうか。
そして不思議にもその事について誰も何も言わない。
然もこの行為が当然の様で異常な空気感。
私が土井さんが実は検査科の科長本人だとわかったのは土山さんが赴任してからだった。
だってまさか検査科の科長が一日中べったりと透析室勤務をしているとは普通に思わないでしょ。
然も昼食すらも透析室の休憩室で普通に?食べていたのである。
そう、これ以上ないくらいの重苦しい空気感を周囲に放ちながらの黙食。
今現在、この況下の中での黙食ならば推奨されるのは間違いないだろう。
だがずっと立ちっぱなしで忙しく働いている中でのささやかな昼食タイムに、周囲の人間を圧死寸前にさせる程の圧を放つ事はないと思う。
そうして私と土山さんは彼が検査技師だと知ってしまった。
とは言え私はまだまだ経験が浅く透析上の方の解釈すらも完全には出来ていない――――と言うよりほぼほぼ理解してはいない。
それでもだ。
これまでの経験や前職での検査技師の仕事をそれとなく見聞きしていた。
また土山さんは私とは違い透析看護のベテランNs。
土井さんは穿刺を行えない事も直ぐに察知した。
でもだからと言ってNs……入職間もない准看護師二人に一体何がどう出来ただろう。
病院ぐるみの隠ぺい?
それとも越権行為若しくは制度上無視した医療行為なのだろうか。
何れにせよ私達二人だけで立ち向かえる筈がない。
それに土井さんの件だけでなくこの病院は色々と可笑しいのだ。
そう第一にどうして准看護師が正看護師を指示し指導をしているのか。
それも弄りを含んだ悪質なもの。
なのに誰も注意どころか止める事もない。
院長は院長でAチームのリーダーが自分のお気に入りの看護師でなければだ。
何故なのか相手が泣くまで苛め抜く。
私はAチームへ助っ人として何度か応援しに行ったけれども、そこで見せられたのはBチームにいた時に仲良くさせて貰った柿本さんまでもが院長に何度も叱責と言う苛めを受けていた。
柿本さんは仕事が出来ない訳じゃあない。
普通に、そう真面目に仕事と向き合う女性である。
ただ自分のお気に入りがいないだけでこんなにも喜怒哀楽がはっきりするDrもいるのだと、改めて思い知らされてしまった。
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