第6話 疑問 Ⅵ
何も出来ないまま悶々と日々不満が溜まっていくと言うか、凡そ許容し難い現実を知ってしまった以上何も気づかなかった時に戻る事は出来ない。
正看護師である古川さんと赤井さんを差し置き透析センターのドンとして君臨し傲岸不遜に強権を振るう藤沢さんもだが、穿刺を行う事が制度上許されないまま未だそれを続ける土井さん。
その二人をそのまま重用し寵愛するN病院の院長や看護部長を含む幹部達と病院の体制。
因みにAチームで院長のお気に入りもまた准看護師である。
大岩 秋……34歳の長身痩躯と言うか本当に背がひょろっと長く、今にもポキッと折れてしまいそうなくらいに細い身体をした男性看護師。
昼間の病院なのに何処か妖しい色香を滲ませた気の強いオネエキャラ。
彼自身かなり人見知りが強いのか、昔から働くスタッフ以外とは挨拶さえもしない。
私は出会う度に『お疲れ様です』と挨拶はするが返事が返ってきた事はない。
そんな彼と院長が声を抑える事無くキャッキャと楽しげに話しながら一緒に仕事をしている姿は、20代前半で付き合いたてのバカップルさながらに見えてしまうのは何故なのだろう。
ただこれだけは誤解の無いように言いたい。
断じて私は羨ましいとは思ってはいない!!
はっきり言って彼らの関係なんてどうでもいいのだが、大岩さん以外のスタッフがリーダーになると不機嫌になるのだけは傍から見ていて余り気分のいいものではない。
そうして何とも言えない日々を過ごしていたある日の事だった。
「桃園さん、今日アンタの担当の患者さんの真鍋さんな、輸血あるから頼んだで」
「あ、はい」
そうしてリーダーである藤沢さんより輸血を指示された私は頃合いを見て中央材料室へ行き、血型等の確認をしてから血液パックを受け取りセンターへ戻る途中でつい思ってしまった。
血液パックが薬剤部の管理下に置かれていない事。
また受け取る際に何で看護師ではなく看護助手なのか……と。
今までの病院では絶対に有り得ない事だった。
医療安全が叫ばれている昨今において何て時代遅れな病院なのだと思ってしまった。
だがこの輸血に際しても疑問と問題はまだまだ序の口なのだと、この後センターへ戻った私と土井さんが驚愕が隠しきれない状態に、きっとム〇クの叫びも真っ青な表情になるなんて思いもしなかったのだから……。
本当にここは平成末期の病院なのかと、何度も疑う事になるとは思いもしなかったのである。
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