第8話  服薬

 絞殺の次に選んだ方法は


 ポピュラーなものとして最初は眠剤を……と思ったけれども生憎ながらそこまでの量は持ち合わせてはいない。

 ただ狭心症の薬は長年服用しており、またかかりつけが個人の小さな医院だった所為もあって時折薬が重複して出されていた。

 当然薬は余るけれどもだからと言って薬は決められた量しか飲んではいない。

 そこは医療従事者としてと言うのもあるけれども一番根っこにあるのはだからである。


 カプセルや錠剤ならばまだ何とか我慢をして飲んではいる。

 粉……は完全にアウトである。

 38歳になるまで薬いらずの健康体だったのだ。

 それが何が悲しくて狭心症を患い薬漬けの日々を送る羽目になるとは――――。


 そうして処方量を減らしては貰っているものの勤務の兼ね合いで思った日に受診出来ずつい、そうつい重複した診察からの処方薬が少しずつ余っていたのである。


 その余った薬たちの中で選んだものが抗凝固剤。

 

 つまりは血液をサラサラにする薬である。

 一回一錠、一日三回だったと思う。

 これを飲んだとしても上手く死ねる保証何て考えてはいない。

 ただこの時の私は百錠近い抗凝固剤を飲みたくて、飲んでみたくて仕方がなかった。

 まだ何も服用してはいないが気分はハイテンションMaxで、心がウキウキわくわく……楽しい事なのかそれとも悲しいものなのかさえも分からない。


 ただただ自殺をまた図る事が出来る!!

 薬を大量に飲めるのだ!!

 後の事なんてどうでもいい。

 麻薬ではないが今この快楽に浸りたい……みたいな何とも不思議な気持ち。


 ふんふんと超ご機嫌に鼻歌を歌いながら、でも何故か薬を見つめる瞳からは涙が幾つも流れ落ちていく。


 喜怒哀楽が迷走中。


 そうしてあっという間だ。

 もっと何かあるのかと思えば意外と、そして呆気なく抗凝固剤は私の胃へと収まった。

 多量の抗凝固剤を飲み終えた私は何が起きてもいい様にベッドへ横になっていた。

 

 これで死ねるのであればそれもいい。

 でも普通に抗凝固剤で死ねるのか、睡眠薬の過剰摂取ではない。

 睡眠薬だって楽に死ねるものではない。

 どれ程飲んだとしても死ぬのはほんの僅かだろう。

 それよりも抗凝固剤の副作用は……等とつらつら考えていると母がやって来れば直ぐにゴミ箱にある空のシート、それも同じものが尋常でない数と来れば……。


「何でこんな事を――――って何時飲んだの?」

「…………」


 素直に答える訳がないと言うよりも、抑々そもそも面と向かって話す事が出来ないのだ。

 母が部屋の扉を開けたと同時に私は布団に包まり大きな身体をすっぽりと隠し耳を閉ざす。


 やばいバレてしまった!?

 

 

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