第7話  疲弊

「死なせてっ、お願いやから……もう楽になりたいんや!!」

「アホな事すんな」

「お願いやし、もう死にたいんや。もう何日も眠れてへん。も、もう生きているんが辛いんや!!」

「せやから言って死んでどうするん」

「……死んだら楽になれる。辛いのも眠られへんのからも解放される」

「雪ちゃんが死んだからってあいつらが悲しむ事はあらへんで」

「――――っ⁉ せ、せやけど、もう息を吸うのもめっちゃしんどいんや!! せやし楽になりたい。楽になりたいっ、もう楽になりたいんやあああああああああああああああ!!」



 それからの毎日、いや昼夜関係なく日に何度も私は自殺未遂を繰り返す。


 先ず最初にって一体何が最初で最後なのかはもうわからない。

 それ程までに当時の記憶は非常に曖昧な部分が多い。

 その曖昧な記憶で覚えているのは


 選んだ理由は一番ポピュラー且つ遣り易い……から?


 寝室若しくはトイレで掛けてあるタオルを首に掛ければ、端と端とを交差すると後はぐるぐる捩じり上げていくだけだのもの。


  今ならばなんて愚かな事を……と思うのだが、あの頃の私は何故かそれがシンプルで確実なものだと思い込んでいた。

 本当なら首を吊りたいと思うけれども如何せん私の身体は些か成長し過ぎている故にと言う方法が選択出来なかったのである。


 それではドアノブを――――と選択しなかったのはきっと心の何処かでまだ死にたくないと思っていたのかもしれない。

 それだからこそのタオルを用いた方法だったのかな……と思う。


 両手で握っているタオルを締め上げ呼吸が徐々に出来なくなりふと気が遠くなりかければ家族に発見され怒られ、また衝動的に死にたくなればタオル自殺未遂を飽きる事無く繰り返していた。

 そんな奇異な行動をする私を家族は心配の余り時間を見て何度も様子を見に来ていた。

 トイレに入っていれば扉の前で立って様子を窺ってもいた。

 少しでもそれらしい気配を察すれば問答無用で扉を開けられもした。


 自殺が失敗すれば夫や母、弟妹達の前ではなを垂らしながら私は意味不明な事を叫び泣き喚く。

 本当に昼夜関係なく……私にとってそれがその時だったのである。

 家族や近所迷惑なんて関係なくと言うか、あの頃の私の頭の中にと言うものは存在しなかった。


 言ってみれば四十代にして幼子と同じ様に泣き叫んでいたのだ。

 それでも私は眠れない日々が続きハイテンションで嬉々として自殺を何度となく図り、家族はそんな私に付き添う最悪な年明けだった。


 もう私だけでなく家族全員の心だけでなく身体までもを疲弊させていた事に私は全く気付けなかったのだ。

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