異世界転生伝説~異世界転生でスローライフを希望したら、そこは魔物が溢れる土地でした~

オオモリのサトウ

第1話どうやら俺死んでしまったようです

 目が覚めたらそこは死後の世界でした。

 突然、何を言っているのか分からないと思うが、俺自身何を言っているのか分からない。

 ただ、真っ白で汚れの知らない、暖かな光が俺の視界を染め上げる。


「あなたは死んでしまいました」


 とは、二メートル先で、無駄に広い机に腰かけている、少女の言葉だ。

 なにが起きているのか。

 俺は直後の記憶を手繰り寄せ、不眠不休でバイトをして倒れたことを思い出した。

 俺の最新記録の4日を塗り替えた日だから良く覚えている。

 何の最新記録なのかずばり、連続で寝なかった日のことだ。


「あなたは死んでしまいました」


 さっきからまるで、壊れた機械のようにリピートしている。現実を叩きつけるように、逃げ場を塞ぐように。

 縁起でもない。


「あなたは死んでしまいました」


 それともなにか、反応するのを待っているのだろうか。


「あなたは死んでしまいました」

「ああ、もう! 分かったよ!」


 いよいよ気が滅入ってきた。観念した俺は壊れた機械に返答する。


「そう。なんで死んだとか聞かないの」

「どうせ過労死だろ。んなもん聞かなくても分かってる」


 いつかはそうなると思っていた。穀潰しの親を養うために食べず寝ずバイトに励み、将来のために高校まで通っていた。無理が祟ったのだ。それくらい、気絶する前の状況を見れば分かる。


 後悔はある。なぜ親を見捨てなかったとか、なぜ無理して学校に通った、とかな。けどそれは過去になってしまったことだし、今さら喚いた所で、意味はない。体力の無駄だ。時間の無駄だ。

 そんなことより、建設的なことを言わなければ。


 隆二は頭の中で何を言うかを考えると、意を決して少女の瞳を見た。

 綺麗な、芸術作品のように澄んだ黒色だ。髪も同色のようだ。

 改めて見るとその整い過ぎた容姿に、魂が抜かれそうになる。

 天使…………天使だ。それか女神。

 容姿から咄嗟に出た言葉だが、俺はこの少女がそれに近い存在だと確信していた。


 死んだ後に対面する者といえば、アニメやゲームを信じるなら。

 まさか閻魔大王ではないはずだ。岩をも霞む巨体と、厳つい顔を赤塗りにした鬼のような存在だと俺は信じている。

 ジロジロと見たのがいけなかったのか、少女は不思議そうに首を傾げた。


「どうしたの?」

「色々聞きたいことはある。あなたは何者か、俺はどうなるのか」

「あなたは死にここに来ている。なら決まっている」


 片言でどうでもよさそうに少女は肩を竦める。

 やっぱりそうか。死者は天国に行くか地獄に行くか、はたまた生まれ変わるのか。

 その審判が今下されようとしているのか。


「では俺はどうなるのですか」


 極めて冷静に問うことが出来たと思う。


「あなたは別の世界に生まれ変わる。…………自我を持った状態で」

「生まれ変わる…………しかも自我を持った状態で?」


 それって俗に言う異世界転生ではないだろうか。なろうとかで席巻しているジャンルだ。


「なんで、俺が」

「知ってる。…………いや知らない」

「どっちだよ」

「詳しいことは言えない」


 つまり何らかのファクターがあって、転生するのか。何だろう?

  俺は頭に酸素を巡らせ考えたが、答えが出ないために放置した。


「どんな所なんだ? 剣や魔法がある異世界か?」

「うん、大体想像通り?」


 となれば魔物とかもいるかもしれない。嫌だなぁ。


「転生させる。ちょっとシャラップ」

「…………あ、ああ」

「そういえば、願い事はなに?」

「願い事?」


 転生の際に特典でも貰えるのだろうか。チート級の能力やら、武器やら、特性やら、といったところか。

 遥か昔に置き去りにした中二心が顔を出し、胸が踊る。


「それって何でも?」

「可能な限り」


 ごくり。喉が鳴り、乾いた音が響いた。

 神に近しい存在が可能な限りと言っているのだ。大抵は叶うだろう。

 とすれば俺が望むのは。力か地位か金か。ハーレムとかもいいかもしれない。夢が膨らむ。


 …………………………だけど。

 思い出すのは、自分を無理やり押さえつけ、まるで奴隷のように働いていた地獄の日々だ。

 働き働き働いて、ようやく休めたのは死んだから。冗談じゃない。

 …………そうか。なら願いは決まった。


「豊かな自然に普通の家族。それだけが必要だ」

「……わ、わかった」


 少女は平坦な声を崩し、眼を張った。

 そんなに俺の願いが珍しいのだろうか。けどまぁ、悪くない。神に近しい存在の度肝を抜くことができたなら、俺の死にも意味があったということだ。…………もう死んでるけど。


「手を握って」

「お、おう。こうか?」


 少女は俺に近寄り、無表情でスラッと伸びた手を伸ばす。

 俺はそれに応じると、ひんやりとした感触が肌を伝った。

 少女は眼を閉じ、祈るかのように手を掲げる。


 段々と俺の周囲を囲むように浮かび上がる淡い紫。

 掠れゆく意識の中、ふと少女を見つめた。

 どこまでも神々しい、文字通り神の威光を発している彼女。

 ああ、やっぱり。


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