後日談(追記) 監視者たち

 世界は不穏だった。

 相変わらず不穏だった。

 この半世紀、穏便であった年などほとんどない。

 だが、よりよい明日を能天気に信じる人たちはまだまだ夢の中にあった。

 国有鉄道が歴史を閉じたとき、角田えりかを監視していた男二人が東京で落ち合っていた。

 地学教師の前田と、一度えりかを誘拐しようとした木村だ。木村は喪服姿だった。

 二人は新宿の地下街にある喫茶店でむかいあっていた。お世辞にもおしゃれとはいえない店で、広々とした店内にはあちこちに何する人か三々五々に集まって話をしている。

 前田と木村は学生時代からよくこの店で落ち合っていた。そのころにはもう彼らは「見つけられ」、今の裏向きの仕事の下働きをしていた。

「どうだった」

 前田が聞くのは葬儀の様子だ。

「遺産相続めぐってぎすぎすだったよ。まだ先の相続めぐって御師様の孫たちがね」

 御師様と彼らが呼ぶのは角田えりかの曾祖父のことだった。木村は生前直接の世話になったことがある。

「そうじゃなくって、御師様は本当になくなったのか」

「俺は棺桶の中に花をいれたぞ。まちがいなくあの人だ。生きてたとしてももう灰だが」

 前田は頭をぼそぼそかいた。いらついていた。

「そうじゃない。僕にはあの人が素直に死んだとは思えないんだ」

「御師様だって人間だぞ。お気に入りのひ孫があんなことになって、気力が抜けてしまったんじゃないか」

「その角田えりかは本当に死んだのだろうか」

「彼女が飛行機に乗るのは確認されているし、墜落する飛行機からどんな魔法で脱出するというのだい。君も俺もあれが存在することを知ってるし、感じ取ることもできるし、いたってささいなものなら風向き次第で使えるが、あれはその程度のものだ。落ちる飛行機から脱出なんてできやしない」

「彼女の遺品は見つかっていない。彼女の両親のものは見つかっているのに」

「遺品が出てこない犠牲者は他にいるさ。なんでそう思うんだ」

「おまえもいただろう。彼女の監視を終了するための報告会。御師様もあのときあそこにいた」

「毅然となさっていたね」

「孫夫婦を失ってこたえていたがな。だが、違和感があった」

 木村は黙り込んだ。直接の監視を任された通り、前田の直感はあなどれないものがあったからだ。

「御師様は何か知っていたと思う。もしかしたらちょっとした干渉をしたかもしれない」

 この言葉に木村は心当たりがあった。

「角田えりかは危険視されていた。関係あるかい」

「彼女は明確な意志で人を一人殺している。殺意はなかったが、さらに後で人死にを出しても平然としていた。倫理観にかけ、しかも強い術を使える危険人物だと思われていた。報告会では御師様に遠慮して誰もいわなかったが、みんなほっとしていたね。御師様はそれに無反応だった。少しおかしくないか」

「だが、一緒に彼女の両親、御師様の孫夫妻も犠牲になっている」

「それは予想だにしなかった結果じゃないだろうか。御師様は彼女の何かに気づいて、そこに少し干渉をしたんじゃないかと思う。魔法の基本だ」

 地学教師前田はまだつかえたものがあるらしく、木村を制して言葉をつづけた。

「その基本を、彼女は誰にも習ってない。御師様にあったのも赤ん坊の時と墜落事故の前だけだ。こればかりはどうにもわからない。自分で発見したのか」

「俺を撃退したときも、見事なもんだったな。何か目的があって鍛えてたって感じだった」

「裏があるとして、あの御師様が気づいてないはずはないと思わないか」

「確かにな。だが、今じゃ確かめようがないぜ」

 木村のいう通りだった。前田にもわかっていた。ただ、彼は納得がいかなかっただけだった。

「まあ、あの御師様がただ死ぬとは思えない。もしかしたら角田えりかが消えた先に、御師様なりの方法でおっかけをやったんじゃないかと思うことにするよ」

「ああ、あのくそ爺ならありえなくもないね」

 木村はそれ以上論駁することはしないことにした。前田の言ってることは妄言だと彼は思っているが、納得できない気持ちもまたよくわかったから。

「それで、このあとどうするんだ」

 彼は話題を変えた。監視対象の女子高生が消え、彼らの御師様がいなくなったとしても、彼らの仕事が終わるわけではない。

「御師様の後任とやらの指示でね、また女の子の監視だよ」

「変態教師だな」

「うるせえ、誘拐犯」

「いやいや、平和でいいよ。俺のほうはこれからよからぬやつらのよからぬなんかをどうにかしなきゃいかんらしい。荒事嫌いなんだがねぇ」

「ふわとしてるな。まあ、安全第一でな」

 彼らは再会を約束して、新宿の別々の駅へと別れて行った。


おわり

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逆転召喚者 呼び戻されるその日のために @HighTaka

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