ボーカロイドとはなんなのかよく分かっていなかった私は、この作品を読んで、まさかアマチュアで音楽プロデューサーにまでなれる時代になっていたとは!と今更のように衝撃を受けました。
この物語は、ボカロP(プロデューサー)として互いの存在と作品を知っていたサワーPと246Pが、Twitterでメッセージを送りあい、実際に会うところから始まります。
二人の会話を読んだ時、私は、自分が生きた時代とは全く別の感覚を持つ若者のように感じて、これを書けるあとみく様の若々しい感性と、音楽を言葉で描写する語彙力、表現力に圧倒されました。
ただ、どんなに時代が変わっても、人間というのは常に、何者かにならなくては!という焦燥感と孤独を抱えて生きているのかもしれない。
ボカロPとして、音楽で繋がり始まった二人の関係の結末が正解か不正解かなんて誰にもわからないけれど
何が自分にとって幸せなのかは、他人が決める事ではなく、自分で選ぶものなのだと考えさせられる作品です!
ボカロは音声合成技術を駆使したコンピュータソフトだ。
小説を書く人達にカクヨムがあるように、今はニコ動やYouTubeを媒体にして、それらボカロを使って音楽にもセルフプロデュースの場が設けられている。
一人で歌詞を書き一人で曲を作り、ボカロに歌わせ演奏させる。
それら全てを一人で手がけることから、彼らは名前の下にP(プロデューサー)をつける。
この物語もそんな「P」の二人だ。互いにリスペクトしていた者同士オフで会って意気投合し、二人のコラボでミニアルバムを出すという方向に話は進んで行くのだが…。
最初は雑踏の中にまみれるような会話から始まって、興味本位に関係を持ち、でもそこには二人が共通して抱えている焦燥感や夢や絶望があり、悩んだりぼんやりした日常を過ごしながらも、やがて全てが相殺されてシンプルなものが見えてくる。
夢を諦められずに歳を重ねた人。心の何処かで今の自分を認められない人。
夢は遠くなったけど、まだ種火を燃やし続けている人。諦められない。諦めたくない。でもそれだって明日には簡単に手放しても構わないかも知れなくて…。
そんな人達のあやふやな心の何処かに響く物語だと思いました。
この小説自体がまるでボカロの曲を聴いているような感覚を覚えます。
冒頭の会話の迷路に迷った人も、出口には心に響く何かが待っているはずです。ぜひ最後まで読んで欲しい。