第4話 エマの災難
エマは現実逃避したくなった。
なんで自分はこんな所でバケツを持ったまま立ち尽くしているのだろう...いや、本当は分かっているのだ。エマの後ろにコッソリと隠れて、期待に胸を膨らませながら、瞳をキラキラ輝かしている悪役令嬢のせいだということを。
結局、あんな理不尽なお願いを断り切れなかった自分が悪いのだ。まぁ、あれをお願いと呼ぶのか脅迫と呼ぶのか賛否が分かれる所だろうが...エマは諦観しながらもメリルの姿を追い求めて彷徨い始めた。不審者であること極まりない姿だ。
すると遠くにピンクがみえた。あんなピンクはヒロイン以外あり得ない。エマはコッソリと後をつけた。バケツが重い...なにもこんなに入れなくても...半分くらいにしとけよ...と愚痴りながら。
どうやら裏庭に向かっているようだ。しかも一人じゃない。五人の女子生徒が一緒だ。これはもしかして!?
「あんた、平民のクセに生意気なのよ!」
「ちょっと可愛いからっていい気になってんじゃないわよ!」
やっぱり虐めだ。エマが観察していた限りでは、虐められてる様子は無かったのだが、実は影で虐めを受けていたということなのだろうか。
「今まで黙ってたけどもう我慢出来ないわ! 今日こそは思い知らせてやる!」
おや? ってことは今日初めて事に及んでいるのか。
「だったらどうする気?」
「こうするのよ!」
五人の内の一人が右手を振り上げた。ビンタする気だろう。だが、
「痛たたたっ! 折れる折れる! ギブギブ!」
メリルがその手を掴んで捻り上げた。
「フンッ!」
そして他の四人に向かって放り投げた。
「キヤァァァッ!」
五人纏めてもんどり打って倒れた。
「合気道二段舐めないでよね。あんたらなんか束になって掛かって来たって怖くないわ。それで? まだやる気?」
「す、すいませんでした~!」
五人は風のように去って行った。
「な、なによあれ...なんであんな強いの? それに合気道ってまさか!」
エマは目の前で起きた出来事に頭の理解が追い付かなかった。ヒロインも転生者? でもそれならなんで王子にもっとアプローチしないのか? エマは頭が混乱してきた。
「それで? あんたはなんなの? バケツなんか持って罰ゲームでもやってんの?」
「へっ?」
マズい! ビックリして思わずメリルに近付いてしまっていた。エマは焦った。
「え、え~と、これは...」
「これは?」
ど、どうしよう! 水なんてぶっ掛けたら投げ飛ばされるだけじゃ済まないんじゃ!? 斯くなる上は!
バシヤァッ!
パニックったエマが選んだ行動は...バケツを自分で被るだった...
「ふえーーーんっ!」
泣きながらその場を走り去るエマを呆然と見送ったメリルは、
「一体なんだったの?」
と首を捻った。
その後ろでカレンは声に出さずに腹を抱えて笑っていたのだった。
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