第3話 エマの受難
伯爵令嬢のエマは転生者である。
彼女の前世は日本という国の女子高生だった。死因は不明だが前世の記憶を思い出したのは、彼女が10歳の時である。この世界は前世の自分がハマっていた『パーフェクトプリンス』という名前の乙女ゲームであること、その中で自分は悪役令嬢の取り巻きを務めるモブであることを理解した。
理解はしたが、悪役令嬢の断罪に巻き込まれて破滅するなんて真っ平ゴメンである。なので、悪役令嬢にも攻略対象である王子にも極力関わらず傍観者に徹するつもりでいた...はずだった。
入学式の日、ヒロインと攻略対象の出会いイベントを、間近で見てやろうと思ったのがそもそもの間違いだった。だってまさかヒロインが出会いイベントを失敗するなんて思わないではないかっ!
そもそもヒロインと攻略対象である王子との出会いイベントとは、遅刻しそうになって慌てたヒロインが、王子とぶつかってしまい、王子から「そんなに急いだら危ないよ?」と優しく抱き上げられるというシーンのはずだ。
しかしヒロインよ、なんだその全力タックルはっ! ラグビーか!? アメフトなのか!? そりゃ王子も引くわっ! ってかおもいっきり避けられてんじゃんかっ! と思わず叫んでしまったエマは悪くないと思う。
だがその後、王子と悪役令嬢に捕まり、洗いざらい白状させられてしまうのだが...無駄にキラキラした二人に詰め寄られて、堪え切れず前世の記憶まで喋ってしまったのは、エマが悪いと思う。
そのせいで今日も二人に捕まり、この後起きるはずのストーリーを話す羽目になっているのだから。一度、二人に聞いてみたことがある。ゲームの展開を知ってる自分が居るのだから、破滅を防ぐよう行動してみたらどうかと。そうしたら、
「そんなのダメよ!」
「ど、どうしてですか?」
「だって面白くないじゃない!」
「あぁ、その方が面白そうだな」
どうやら厄介な者達に捕まってしまったようである...
◇◇◇
そんな訳で結局の所、悪役令嬢の取り巻きという立ち位置に、不本意ながらもついてしまったエマであるが、ヒロインであるメリルを観察していて若干の違和感を感じていた。
なので、ゲームの知識を少しお浚いしてみようと思う。平民出身であるメリルは、魔法の才能があることを認められて、貴族しか入れないこの学園に特別枠として入学を許可される。
平民であること、珍しいピンク色の髪であること、儚げな印象を与える可憐な容姿であることなどから、入学当初、他の貴族子女達からの虐めを受けることになる。入学式で王子と絡んだりしたから尚更である。
そう、ゲームの中では。実際はどうか? 入学式の出会いイベントは、ヒロイン自身の自爆により失敗。王子との接点が一つ消えた。その後、接点を持とうと動き出すこともしない。虐めに合ってる様子も無い。どういうことだろう? エマは首を捻るばかりだった。
「ねぇねぇ、エマちゃん。それでこの後はどうなるの?」
そして今日も今日とて悪役令嬢に絡まれてるエマ。
「えっと、そうですね...確かこの時期はずぶ濡れイベントが発生する頃です」
「なにそれ! なにそれ! どんなの? どんなの?」
瞳をキラキラ輝かせて聞いて来るカレン。
「えっと、ヒロインを裏庭に呼び出して『あなた、平民だから汚れてるわね。これでキレイにしてあげるわ』と言って頭からバケツの水をバシャッと。『あら、ごめんなさいね。汚れた水だったみたい。でも汚れたあなたにはお似合いね。オーッホホホホッ!』ここまでが1セットです」
「なにそれ、最低じゃないの!」
「いえ、あなたがゲームの中でやったことですので...」
「私は弱い者虐めなんかしないわ!」
「そう言われましても...」
「エマちゃんがやってよ?」
「な、なんで私が! 嫌ですよ!」
「やってやってやってやってやってよ~!」
「勘弁して下さい~!」
エマの受難はまだまだ続く。
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