エピソード5 ブラチラーの着エロ定理

射精歴1519年、ハメドリアの性癖学者、ブラチラー・シマパンスが提唱した『全ての人は、着衣とオーガズムの間に疑似フェロモンが存在し、比例している』といった着エロ定理がある。


要は『人は皆、全裸よりも着たままエッチの方が凄い興奮するよね』というものだ。


パッと聞けば簡単な話だが、この証明は実に難解を極めたものであった。

提唱者であるブラチラーがその生涯をかけてこれを証明しようとしたが、根本にして最大の壁である「全ての人に当てはまらない。人の好みによる」というものを解決出来ないまま、1538年に陰嚢破裂によりこの世を去った。


その後、数多もの性癖学者がこの問題に挑んだ。だが皆、この最大の壁を解決できず、インポになっていった。


この問題は、チクニー予想、ケモナー獣化率問題と並び、性学上の未解決問題として、この先100年は解決しないだろうと、有識者の共通の認識となった。



この問題が次に大きく動いたのは、およそ150年も後の事となる。


射精歴1690年。パンチラーンのユル・イ・ワキコキーが、ある大規模実験を行った。

その内容とは『体育館に500組の男女を集め、全裸組と着衣組に分かれてセックスする』といった企画ものAVのような実験だった。


かつてない大規模実験が実現した背景には、バキュームフェラー財団の支援があったし、実験映像を売れば研究費が稼げるよね!といった打算もあった。


様々な思惑があったが、ともあれ、この大規模実験は予定通り行われたのだ。


だが実験の結果は、期待と大きく異なった。


全裸組と着衣組それぞれで、モニターしていた身体的熱量および絶頂時間が、決定的となるほど変わらず、証明とまではいかなかったのである。


この大規模実験は失敗で終わった。

ただ、この実験映像は、その年のAV売上ランキングで3位だった。



次に進展したのはワキコキーの実験から10年後の1700年の事である。


トロマン公国のインケー・カリンが、この難題に挑戦した。

インケーが着エロ定理を証明しようとした際、他者とは別のアプローチを用いた。


それは『ズラし挿入』である。


当時、ズラし挿入は、着衣プレイの新しい形として注目をされており、性的興奮を高める効果があるとして、巷のポピュラーとされていた。

これならば、長年解決できなかった『人の好みによる』壁を打ち破れるのではないか。

インケーをはじめ、当時の性癖学者達はイキり勃った。


ほどなくして証明に関する論文は発表され、複数の姫サークル系チームによる検証が行われた。

誰しもがこの理論ならばと、大きな期待に亀頭を膨らませていた。

だが、検証の最中、新たな問題が証明を阻んだのである。


『着衣が汚れる事への嫌悪感』が検出され、それが反証となってしまったのである。


この結果を知ったインケーは発狂し、性癖学を引退。晩年を絞首オナニーに耽り、その生涯を閉じた。

着エロ定理の証明は、またもや『人の好みによる』壁を破ることが出来なかったのである。



もはやこの問題を解決するのは不可能ではないか。

学者の間では絶望的とささやかれはじめ、やがて、この問題に挑む者はいなくなった。不可能であるという共通認識が、界隈の定説となったのだ。





そして、長い長い月日が流れ、射精歴も1822年もさしかかろうとした頃、学会を大きく騒がす出来事が起きた。


インケーの論文から、実に120年後のことである。


ハメドリアの若き性癖学者であったケツハメル・アクメスが、ある実験を行い、論文を発表したのである。



そう、長らく誰しもが触れ得ざる問題であった、着エロ定理を証明するものであった。



学会にどよめきが起こった。すでに証明不可能であることが定説だったこの問題に挑んだ事への驚き、そして、無謀さへの嘲笑もあった。

だが、その実験内容を聞くや否や、全ての人間が沈黙したのである。


実験内容は、なんてことはない、数組の全裸組と着衣組に分かれてのセックス実験である。

だが、着衣組に決定的に異なる光景があったのである。


ケツハメルは、過去のワキコキの大規模実験を否定し、インケーのズラし挿入論を肯定した。

そこに更に『密室性』と『色』を取り込んだのである。



『密室』とは例の〇〇しないと出れない部屋といった看板を掛けることによる2人きりの緊張感と吊り橋効果を、『色』とは、部屋の照明を薄暗い赤で統一し、興奮を

促した。

そして更に、ズラし挿入を着衣組に組み込んだ。

これにより『人の好みによる』壁を見事に論破したのだ。


その結果、全裸組と比べ、着衣組全てに著しい体温の上昇およびフェロモン値の上昇がみられたのだ。


この論文の発表後、会場は長い沈黙の後、徐々にざわめきだった。

何人かはちょっと勃起していた。



着衣系の学者達は元来、コスチュームとシチュエーション妄想の専門であったため、雰囲気作りのための空間と色を用いたこの説明に難解を示し、中には「邪道だ」との批判もあった。

批判者の何人かも、やはりちょっと勃起していた。

だが、ケツハメルの論を跳ね除けるほどの反論が出なかったのもまた、事実であった。


早速、検証チームが結成され、正しいかどうかの検証が行われた。


検証は3年もの長きに及んだ。


検証中、エッチしたアベックは10万組以上となり、着衣系AVもバカ売れしたし、ベビーラッシュにも一助した。


その結果、ケツハメルの理論に細かな疑点はあるものの、大きな誤りはなく、その論は正しいという事が証明されたのだ。


およそ300年にも渡った着エロ定理の証明が、ついに決着したのである。

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卑猥妄想史 大全 抜山 忍悟郎 @tsundere_ninja

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