さいごのひかり

 お外、また暗くなっちゃった。

 おねーさん、はやく帰ってこないかなぁ。

 眠くて、身体が重くて、あれれ、ぜんぜん動けないや。どうしよう、おねーさん困っちゃうかな。……たまには困ってもいいのかな、ううん、やっぱりかわいそうだよね。


 おかーさんが来ないの、知ってたよ。

 ずっと『どっか行っちゃえ』って言われてたもん、おかーさんはきっと今、よろこんでる。わたしがいなくなって、お友達とずっとあそんでいられてうれしいって思ってるんだ、たぶん。

 でもね、おねーさん。

 わたしはおかーさんのことが大好きだったし、おかーさんだってやさしいときがあったんだよ? おねーさんのことも大好きだけど、おかーさんのことを悪い人だと思ってるおねーさんは、ちょっとまちがってるなって、思ってたよ。


 ねぇ、おねーさん。

 わたしね、知ってるよ。

 おねーさんがわたしを見てる目は、おかーさんのお友達がはだかになっておかーさんを見てるときとおんなじ目なの。なのに何かをこわがってたよね、知ってるよ。


 わたしのためじゃないよね、おねーさんのためだよね。おねーさん、ずっと何かをこわがってて、だからおねーさんもこわくなるし、そのあとすっごい泣いちゃうんだよね。

 ちっちゃい子みたいに泣いてるおねーさんにぎゅってされてるとね、思うんだ。おねーさんの前からわたしがいなくなったら、おねーさんならきっと、すごいがんばってわたしをさがしてくれるんだろうなって。

 おねーさん、泣いちゃうかな。

 こわいからじゃなくて、わたしがいなくなるのがさびしくて泣いちゃうかな……そんなことになったらおねーさんのことがかわいそうなのに、なんでだろ、ちょっとだけうれしいかも。


 どうなるんだろう?

 ねぇ、ねぇ、はやく。

 はやく、そんなおねーさんが見たいな。


 おなかもすいた。

 のどもかわいた。

 ずっとさむくて。

 すごくねむくて。

 ふわふわしてる。


 ドアがあくような音。

 本当にあいたのかな。

 もう、わかんないや。

 さようなら、の声もうまく出なくて。


 きっとおねーさんなら、わたしがいなくなったあと喜んだりしないで、ずっと悲しんでくれるよね。


 そう思ったら、すこしだけ心が軽くなった。

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蕾を握り潰す 遊月奈喩多 @vAN1-SHing

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