Happybirthday

β

はじめに神は天と地とを創造された。


 僕、という人間という模型を認識し始めたのはいつだったのかもう、忘れてしまった。

 本来であれば、地球の陸地に住む人間が、小さなカプセルの潜水艦におり、深海を漂っているのだ。

 誰もいない世界で、たった一人で過ごしているものの、目に見えない仲間はずっといた。

 ゼロ、という名前の人工知能は、僕の全てを管理しており、最適な答えをいつだって見つけてくれる。

 そこに何らかの等価交換のように、代償も無い。

 そのカプセルで過ごす日は全て決まっている、深海を探索して、誰もいない、いや、何もいない海底で過ごす。

 カプセルは自分が望んだように行動してくれて、僕の為に暇つぶしをしてくれる。

 ゼロが全てを教えてくれるし、地球上にある書籍、というものを与えてくれた。

 それを読み、眠くなれば僕は寝るのだ。

 どうして僕が存在しているのか、それは分からない。

 あるときゼロに、「なぜ僕は存在するの?」と聞いたことがあった。

 彼は優しい男性の声で、「答えが存在しません」とだけ答えた。

 「それらを見つけるために、これから何かがあるかもしれません」

 それだけは教えてくれた。ただ、そのこれからがいつなのかは分からない。

 

 そのうねりに気づいた時、僕は微睡から目を覚ました。

 本能的な恐怖と不安が一気に襲って来るが、「落ち着いてください」とゼロの優しい声がした。

 室内を暗くして、「避難モードに入ります」と機械的な音声で伝えた。

 うねりを感じて、そっと景色窓から見ると、巨大な鮫がいた。

 目はそこだけがぽっかりと開いたかのように真っ暗で、巨大な体躯で深海の底をうねる。

 「大丈夫です。鮫には認識されていません」

 ゼロが言った。

 「かなりの空腹状態のようです」

 鮫は突然猛スピードで直進したと思ったら、衝撃音と衝突を感じた。

 どうやら同類の鮫の腹に噛みついたらしい。

 噛みつかれた鮫は大きく痙攣すると、そのまま、物体となり沈んでいく。

 「あの鮫は一体……?」

 「地球上のデータベースではあの種は認識されていません。おそらくは、まだ未発見の鮫と考えられます」

 鮫は猛烈な勢いで同類を食べると、そのまま闇へと消えて行った。

 「このまま移動しますか?」

 「……いや、しなくていい……。この場所で停滞していて……」

 「分かりました」

 カプセルは海底につき、小さな砂の粒子をあげると、下に錨を降ろした。

 「ゆっくりとお眠りください。このままゆっくりと」

 小さな周波数のような子守唄が聞えてくる。

 まるで、子宮にいる生命のように語り掛けてくる。

 


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