『新釈全訳日本書紀』の中巻以降の刊行が遅れている理由

 以前取り上げた(「小ネタ 50年ぶりの日本書紀の新釈全訳本について」)講談社の『新釈全訳日本書紀』が何故続刊が刊行されないのか、少し理由が分かったので取り上げます。なお、本稿は続刊刊行後、多分非公開にしますので悪しからず。


 中々本書が発売されない爲、代わりにかつて直木孝次郎氏等が執筆した小学館の日本書紀を購入したら正直期待した内容ではなかった(そもそも訓読文が本書により批判されていますし、頭注はあっても補注が無いので本書や岩波日本書紀よりも遥かに内容が薄い)ので、益々本書の中巻以降が欲しくなりました。中巻刊行が当初の2022年秋の予定はおろか、そろそろ下巻刊行予定の2023年冬まで数カ月と迫り、全く発売される気配のない本書に期待を寄せ、つい最近までヤフーショッピングで新刊が発売されていないか同書を毎日検索するという不毛な時間を過ごしていたのですが、KAKEN(科学研究費助成事業データベース)というサイトで古い情報ながら、進捗を確認出来ましたのでご報告します。



・2020年度報告『今後の研究の推進方策』より

「計画期間2年度目には、注釈書の中巻を刊行することを当初の目的としていたが、実際に上巻を刊行してみての作業量の増加や、コロナ禍による調査や打ち合わせ機会の減少等により、2年度目は準備作業に費やし3年度目の刊行とせざるを得ない。

このため、中巻の刊行を3年度目の目標とし、残りの期間を最終刊である下巻の刊行準備に費やす。

また、中巻・下巻は内容的に朝鮮関係記事が多数を占めるため、1年度目および2年度目に韓国研究者との打ち合わせおよび現地調査を行う計画であったが、現在コロナ対策により韓国への実地調査が実質的に不可能な状況にあり、この状況は2年度目以降も当分続くものと思われる。このため、申請していた旅費が大きく未消化のまま残る状況が出来している。

3年度目までこのような状況が続くようであれば、残りの予算を繰り越して研究期間を延長し、下巻の刊行にまで漕ぎつけることも対策として考えている。」

(原文ママ)

https://kaken.nii.ac.jp/report/KAKENHI-PROJECT-20K00310/20K003102020hokoku/


 つまり、2020年当時、コロナが原因で韓国での現地調査や現地学者との打ち合わせなどが出来ず、作業が遅れていた様です。そういう事情であれば刊行が遅れてしまったのは仕方ありませんね。韓国学者に絆されて、変に忖度した内容にならなきゃ良いけどなと心配しつつ、以降の進捗は以下となっています。



・2021年度報告『今後の研究の推進方策』より

「本研究は、古代国家の起源と歴史を語る『日本書紀』について、過去の研究の不足を補い最新の知見を反映した新たな注釈の完成を目指すも のである。このため、文学・歴史学・訓詁学を専門とする研究者の協働により、総合的な立場から『日本書紀』全体の作品論的理解を追求すると同時に、細部にわたって一貫した読みに基づく注釈を作成し、最終的にその成果を整定本文および訳読を付した注釈書として刊行することを目的としている。

最終的に全3巻の注釈書として刊行するうち、すでに初年度の2020年度には、上巻の刊行を終えている。本年度は計画期間2年度目にあたり、科研費申請当初には中巻の刊行を目標としていたが、コロナウィルス感染拡大による資料調査や作業の遅延のため、初年度終了時点で、今年度は中巻刊行の準備を進めることに計画を変更していた。

2年目の今年度においても引き続いたコロナ禍による種々の制限のため、出張しての現地調査や、メンバー間や出版社との打ち 合わせ等には1年目同様の困難があった。年度末には研究協力者も含めたシンポジウムを開催する予定であったが、オミクロン株の拡大のため中止せざるを得なかった。しかし、注釈作成作業自体はオンラインによる打ち合わせ等を活用しつつ、中巻刊行のための準備を進めた。現時点で、中巻の収録対象となる巻8から巻21のうち、底本の翻刻作業はほぼ修了しており、注釈については巻19まで原稿作成が進んでいる。また、並行して現代語訳の作成、さらには原稿既提出分の版組み・校正作業も進めた。

加えて、各研究分担者が注釈作業を通じて得た知見を、投稿論文としてまとめ発表している(研究発表の項参照)。」

(原文ママ)

https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-20K00310/


 これを見る限りでは大分作業は進んでいる様なので、少なくても中巻は刊行されるのではないかと思いますし、2021年度の報告を信じれば、そろそろ刊行されていてもおかしくないのではないかと思いますが、出版社やら大人の事情も絡んできそうですし、すんなりと行かない事もあるのかも知れません。(そもそも採算が取れなかったとしたら出版出来るのかというのもありますしね……。)


 せめて下巻刊行予定の時期(2023年冬)に中巻が刊行されれば良いのですが、2022年度の報告が無いのもちょっと気がかりです。研究成果による論文も2022年度以降は福田武史氏の論文1件のみですし、大丈夫だろうか……。単にこのデータベースの情報が更新されておらず、実際は着々と進んでいる可能性もあるので期待して続報を待ちます。



◇関連項目

・小ネタ 50年ぶりの日本書紀の新釈全訳本について

https://kakuyomu.jp/works/16816452219091770654/episodes/16817330654962040472

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