最新の注釈書。新釈全訳日本書紀

小ネタ 50年ぶりの日本書紀の新釈全訳本について

 最近、空き時間はプログラミングの勉強も兼ねて、Pythonでゲームを作成(と言っても本に書いてあるソースを擬えるだけで内容は理解しきっていません)したり、CISCOルーターのエミュレーター(GNS3)とVirtualBOX上で仮想化したLinuxサーバーを接続させて、仮想的にネットワーク構築ごっこをしたりしていて更新間隔が開いてしまい、申し訳ございません。最近はPythonやAWS(Amazon Web Services)、PostgreSQL(データベース)関連の資格にも興味があって、出来れば勉強もしたいかなとも考えており、全く分野が違うこちらの方まで中々手がつけられなかった為、今更な小ネタですがご容赦下さい。


 2021年に講談社より50年ぶりの日本書紀の本格的な訳、注、校訂本の『新釈全訳 日本書紀 上巻(巻第一~巻第七)』(神野志隆光 金沢英之 福田武史 三上喜孝・著)が発売されました。


・講談社BOOK倶楽部『新釈全訳 日本書紀 上巻(巻第一~巻第七)』

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000321148


 事典サイズの分厚く重い本で定価も4950円と、今後発売予定の全巻を合わせるとしたらとてもお手頃とは言い難いのですが、近年の研究成果も踏まえた新釈全訳本なので、遅ればせながら去年購入しましたものを今更話題にします。(マテ)


 本書は『本居宣長「古事記伝」を読む(1~4)』(講談社選書メチエ)『変奏される日本書紀』(東京大学出版会)などの著者でよく知られている神野志隆光氏を中心に日本文学の専門家により執筆されています。


 既存の日本書紀などの注釈書では原文と訓読文がセットで載せるのが通例ですが、本書では原文と訳を載せながら、古訓のうち明らかに文意に沿わないものもあるということで訓読文は載せていません。理由は長くなるので省略しますが、要は平安~江戸時代頃の古訓が正しいとは限らず、訓読は訳読なので現代語訳で十分とのことの様です。記載されている原文を訓読文で読みたい場合は一応古訓と訓点が記載されているので、取り敢えず高校で習う漢文程度の知識があれば大体読めるかと思います。


 校注に関しては如何にも神野志氏らしい神話学的な解釈など少し抽象的で分かりづらい内容も散見されますが、岩波日本書紀などと同じく和名類聚抄といった古代の辞書の他、釈日本紀・書紀集解・日本書紀通証・日本書紀標註・日本書紀通釈と言った定番の注釈本からの引用の他に、神代巻藻塩草のように恥ずかしながら初めて知った著書や、平川南氏などの近年の著書からも若干引用が見受けられます。


 紙面の都合かも知れませんが、岩波日本書紀の様に、歴史学者による様々な対立する仮説を取り上げたりはしていないので物足りない面はあります。岩波日本書紀では補注に多くの紙面を割いており、例えば神武東征の史実性について、批判論を中心に様々な意見が取り上げられていますが、本書ではそう言った内容については記述がありません。


 ネット上ではこの書を購入したから岩波日本書紀を断捨離で処分するという気の早い意見もありましたが、岩波日本書紀が日本古代史、日本思想史、神話・民俗学、建築遺跡など様々な学問領域から二十四人に上る研究者が製作に関わっていたのに対し、本書は執筆陣が国文学の専門家に偏っている為、歴史の学習と言う面では岩波日本書紀に代れるものではありません。但し、国文学的な解釈を学ぶには最新の物と言って良いのかも知れません。更に言うなら西郷信綱氏の『古事記注釈』ような偏向はそれ程見受けられない様に個人的には感じました。


 ところで中巻の発売は2022年秋頃の予定と本書の帯に書かれていましたが、2023年の春を迎えたのに全く発売される気配がありません。個人的にはとても楽しみにしており、毎日チェックしているのですが何時になったら発売されるのでしょうかね?


 もし、発売中止になったか延期になったのだとしたら事情をアナウンスして欲しいです。特に神野志氏がご高齢の為、健康上の問題では無い事を祈ります。


 私見ですが、中巻以降は上巻(原文七巻)迄の伝承の時代から史実性が高い時代になるので、執筆陣に歴史学者も加えた方が良いかと思うのですけれどね……。

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