大ヒット本『サクッとわかる ビジネス教養 地政学』の古代日本史観へのツッコミ②
前稿の続きです。前稿をまだお読みになられていない方はそちらからお読みください。
倭国の朝鮮半島政策に関して主なものを解りやすく西暦で年表にすると以下のようになります。
なお、神功皇后紀の記事に関しては通説通り、干支二運で一二〇年後に西暦をずらしています。
369年 倭国が新羅に遠征し、南朝鮮の七国を平定し、さらに西へ兵を進め平定した
372年 百済が七支刀を倭王の為に献上する。七支刀の七は369年に平定された七国を指すと言う説もあり。(『日本書紀』神功皇后紀五二年秋九月丁卯朔丙子『七支刀』)
391年 日本が海を渡り、百済・■■(任那あるいは加羅か?)・新羅を服属させる。神功皇后摂政前紀の新羅遠征に該当するものか?(『好太王碑文』)
399年 倭国が新羅王を臣下としたので新羅が高句麗王に救援を求める。神功皇后摂政紀で新羅王が
400年 高句麗が5万の兵で新羅を救援し、倭国軍が退却する。(『好太王碑文』)
404年 帯方に攻め込んで来た倭軍を高句麗が撃退する。(『好太王碑文』)
413年 倭王讃が使いを遣わして宋に朝貢する。(『南史列伝』)
421年 倭王讃 詔して除授を賜う。(『南史列伝』)
438年 倭王珍を以て安東将軍となす。(『宋書帝紀』)
451年 倭の済、使持節・都督・倭・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓六国諸軍事加え、安東将軍は
462年 倭国王の世子の興を以て安東将軍と為す。(『宋書帝紀』)
477年 百済が高句麗に滅亡させられたため、
478年 武を使持節都督・倭・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓六国諸軍事・安東大将軍・倭王に除す。(『宋書帝紀』)
479年 武を鎮東大将軍に除す(進む)。(『梁書列伝』『南史帝紀』『南史列伝』)
502年 武(死亡)の号を征東大将軍に進む。(『梁書列伝』『南史帝紀』『南史列伝』)
512年 百済に
527年 近江の毛野臣が六万の兵を率いて任那に行き、新羅に破られた
537年 新羅が任那に侵入したので大伴佐手彦を遣わし任那を助ける。(『日本書紀』巻十八宣化二年十月)
554年 百済が救援を乞う。十二月。聖名王、新羅の為に殺される。(『日本書紀』巻十九欽明十五年二月)
556年 兵士千人を送り百済を救済。(『日本書紀』巻十九欽明十七年一月)
562年 新羅が任那の官家を滅亡させる。(『日本書紀』巻十九欽明天皇二三年春一月)
591年 天皇。任那復興の詔を出す。(『日本書紀』巻二一崇峻天皇四年八月)
600年 新羅と任那が交戦。この年、境部臣一万余の兵を率い任那を助ける。(『日本書紀』巻二二推古天皇八年二月)
602年 征新羅将軍の久米皇子が病となり征討が行えず。(『日本書紀』巻二二推古天皇十年六月)
605年 天皇が仏像を造ると聞き、高句麗が黄金三百両(三百二十両?)を献上する。この頃から主に仏教を通じて高句麗と友好的になる。(『日本書紀』巻二二推古天皇十三年四月『元興寺丈六光背銘』)
660年 七月十日。百済が唐と新羅に攻められ三日後、王城が陥落する。(『日本書紀』巻二六斉明天皇六年九月)
661年 斉明天皇、新羅征討の為に出航。七月に崩御。(『日本書紀』巻二六斉明天皇七年一月)
663年 白村江で官軍敗れる。九月、百済滅亡して亡民日本へ向かう。(『日本書紀』巻二七天智二年八月)
この様に、白村江の戦いの遥か以前である四世紀後半から日本は朝鮮半島へ進出をしており、古代日本はまさしく「シーパワーとランドパワー」の両立を目指した国家でした。
ですが、奥山氏が白村江の戦いよりも以前の状況について触れていない事は、戦後教育の影響で『日本書紀』等の記述を否定的に捉えているからなのでしょうかね? 私の時代の教科書ではとっくに「任那」表記が消えて「加羅(伽耶)」になっていましたが、これは日本側だけの記述だけでなく、客観的な資料として『広開土王碑』や『宋書』にも「任那」表記があります。その様な事実も知らず、(或いは知っていても無視して?)教科書の影響で奥山氏も南朝鮮が独立した地域だと考えていたという事でしょうか?
地勢学者ですらこの様な認識ですから戦後教育会と歴史学会を牛耳った左派による意味の無い贖罪意識から来ているのか、『日本書紀』の記述を否定的に捉え、特に朝鮮半島の経営について知られていないのは一般的な認識だと思うので、根が深い物だと言わざるを得ません。
ですが、近年の研究で『広開土王碑文』が改竄など行われていなかった事が確実視され、『梁職貢図』
◇参考文献
『上世年紀考 増補版』那珂通世 著, 三品彰英 増補 養徳社 50-57頁
「第四章 神功・應神の二御代の考」
『日本書記(下)』 全現代語訳 宇治谷孟 講談社学術文庫 365-368頁
『中国正史 倭人・倭国伝全釈』 鳥越憲三郎 中央公論新書 143-144頁
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