『日本書紀』で見る各時代の大連・大臣(14) 蘇我蝦夷・蘇我入鹿① 蘇我氏の権勢
ここ数カ月間で書籍を購入しすぎてしまった為、中々更新出来ませんでした。購入した主な本は以下の様な感じです。『吾妻鏡』でよさげなテキストがあったらご教示ください。
https://kakuyomu.jp/users/uruha_rei/news/16817139557296894823
本稿ではいよいよ最後の大臣である蘇我蝦夷・蘇我入鹿(但し入鹿に関しては大臣は自称)を取り上げます。
⑴『日本書紀』巻二四皇極天皇元年(六四二)正月
元年春正月丁巳朔辛未、皇后即天皇位。以蘇我臣蝦蛦爲大臣如故。大臣兒入鹿〈更名鞍作。〉自執國政、威勝於父。由是、盜賊恐懾、路不拾遣。
(
・⑴概略
元年の春正月十五日、皇后は皇位に則位された。これまで通り蘇我臣蝦夷を大臣とされた。大臣の子入鹿は、自分から国の政治を執り行って、威勢は父よりも勝っていた。そのため、盜賊は怖気づいて、道に落ちている物も拾わなかった。
⑵『日本書紀』巻二四皇極天皇元年(六四二)十二月是歳
是歳、蘇我大臣蝦蛦、立己祖廟於葛城高宮、而爲八佾之儛。遂作歌曰、野麻騰能、飫斯能毘稜栖鳴、倭施羅務騰、阿庸比施豆矩梨、擧始豆矩羅符母。又、盡發擧國之民并百八十部曲、預造雙墓於今來。一曰大陵、爲大臣墓。一曰小陵、爲入鹿臣墓。望、死之後、勿使勞人。更悉聚上宮乳部之民〈乳部、此云美父。〉役使塋垗所。於是上宮大娘姫王發憤而歎曰、蘇我臣專擅國政、多行無禮、天無二日、國無二王。何由任意、悉役封民。自茲結恨、遂取倶亡。
(是の歳、蘇我大臣蝦蛦、己が
又、
*
中国古代雅楽の編成で、
**
聖徳太子の為に定め置かれた乳部の民。乳部(壬生部)は部の一種で、皇子の養育の料として定められたものと考えられる。
・⑵概略
是の年、蘇我大臣蝦夷は、自家の祖廟を
(大和の
又、国中の併せて百八十あまりにおよぶの
⑶『日本書紀』巻二四皇極天皇二年(六四三)十月
壬子、蘇我大臣蝦蛦縁病不朝、私授紫冠於子入鹿、擬大臣位。復呼其弟曰物部大臣。大臣之祖母物部弓削大連之妹。故因母財、取威於世。
(
・⑶概略
六日、
・⑴⑵⑶解説
これらの記事は大化のクーデターを正当化する為に、ことさらに蘇我氏を悪く書こうとして、誇張と作為を加えた形跡がうかがわれ、
⑷『日本書紀』巻二四皇極天皇二年(六四三)十月
戊午、蘇我臣入鹿獨、謀將廢上宮王等、而立古人大兄爲天皇。于時有童謠曰、伊波能杯爾、古佐屡渠梅野倶、渠梅多爾母、多礙底騰裒囉栖、歌麻之之能烏賦。〈蘇我臣入鹿、深忌上宮王等威名、振於天下、獨謨僣立。〉
(
〈蘇我臣入鹿、深く
・⑷概略
十二日、
(岩の上で小猿が米を焼く。米だけでも食べていらっしゃい山羊(かもしか)のおじいさんよ。)
〈蘇我臣入鹿は、上宮の王たちの声望が、国内に盛んな事を酷く憎んで、自ら臣下の身分をかえりみないふるまいに出ようとした。〉
⑸『日本書紀』巻二四皇極天皇二年(六四三)十一月丙子朔
十一月丙子朔、蘇我臣入鹿、遣小徳巨勢徳太臣、大仁土師娑婆連、掩山背大兄王等於斑鳩。〈或本云、以巨勢徳太臣、倭馬飼首爲將軍。〉於是奴三成與數十舎人出而拒戰。土師娑婆連中箭而死。軍衆恐退。軍中之人相謂之曰、一人當千謂三成歟。山背大兄仍取馬骨投置内寢、遂率其妃并子弟等得間逃出、隱膽駒山。三輪文屋君、舎人田目連及其女菟田諸石、伊勢阿部堅經從焉。巨勢徳太臣等燒斑鳩宮。灰中見骨、誤謂王死、解圍退去。由是山背大兄王等四五日間、淹留於山、不得喫飮。三輪文屋君進而勸曰、請移向於深草屯倉、從茲乘馬詣東國、以乳部爲本、興師還戰、其勝必矣。山背大兄王等對曰、如卿所噵、其勝必然。但吾情冀、十年不役百姓、以一身之故、豈煩勞萬民。又於後世、不欲民言由吾之故、喪己父母。豈其戰勝之後、方言丈夫哉。夫損身固國、不亦丈夫者歟。有人、遥見上宮王等於山中、還噵蘇我臣入鹿。入鹿聞而大懼、速發軍旅、述王所在於高向臣國押曰、速可向山、求捉彼王。國押報曰、僕守天皇宮、不敢出外。入鹿即將自徃。于時古人大兄皇子喘息而來問、向何處。入鹿具説所由。古人皇子曰、鼠伏穴而生、失穴而死。入鹿由是止行。遣軍將等、求於膽駒。竟不能覓。於是山背大兄王等自山還入斑鳩寺。軍將等即以兵圍寺。於是山背大兄王、使三輪文屋君、謂軍將等曰。吾起兵伐入鹿者、其勝定之。然由一身之故、不欲傷殘百姓。是以、吾之一身賜於入鹿。終與子弟妃妾一時自經倶死也。于時五色幡蓋、種種伎樂、照灼於空臨垂於寺。衆人仰觀稱嘆。遂指示於入鹿。其幡蓋等變爲黒雲。由是入鹿不能得見。蘇我大臣蝦蛦、聞山背大兄王等惣被亡於入鹿、而嗔罵曰、噫、入鹿、極甚愚癡、專行暴惡。儞之身命不亦殆乎。時人、説前謠之應曰、以伊波能杯爾、而喩上宮、以古佐屡、而喩林臣、〈林臣入鹿也。〉以渠梅野倶、而喩燒上宮、以渠梅施爾母陀礙底騰褒衰羅栖、柯麻之之能鳴膩、而喩山背王之頭髮班雜毛似山羊。又曰、棄捨其宮匿深山相也。
(
・⑸概略
十一月一日、蘇我臣入鹿、
「一人当千とは
「
と進言した。山背大兄王等は
「お前の言う通りにすれば、必ず勝てるだろう。ただ、私は十年間百姓を使役すまいと決めている。自分一身の為に、どうして万民に苦労をかけられよう。また後の世の民から、私の為に
と答えて言った。
遠くから
「すぐに山に行き、彼の王を捜して捕まえるのだ」
と言ったが
「私は
と答えた。入鹿が自身で行こうとすると、
「何処へ行く」
とお尋ねになった。入鹿がつぶさに事情を話すと、古人皇子は、
「
と言われた。(本拠を離れたらどんな厄に遭うか分からないという忠告)入鹿はそこで行くことを止めた。軍将等を遣り、膽駒山を捜索させたが、とうとう王達を発見出来なかった。やがて山背大兄王等は、山から帰り、
「自分が兵を起して入鹿を討てば、きっと勝つ。しかし、一身の為に、
と語って言われた。ついに子弟、
「ああ、入鹿、何と愚かで、乱暴な悪事を行ったのだ。そのようなことをすれば、お前の命もまた危ういのだ」
と怒り罵って言った。
人々は先の
「『
と言った。
・⑷⑸解説
蘇我入鹿は舒明天皇と蘇我馬子の娘の間に生まれた古人皇子を立てようとして、声望が高く、皇位継承に関する発言権が高かったと思われる厩戸皇子の子である山背大兄皇子を殺害します。
なお、「
⑹『日本書紀』巻二四皇極天皇三年(六四四)十一月
冬十一月、蘇我大臣蝦蛦兒入鹿臣、雙起家於甘梼岡。稱大臣家曰宮門。入鹿家曰谷宮門〈谷。此云波佐麻。〉、稱男女曰王子。家外作城柵、門傍作兵庫、毎門置盛水舟一、木鈎數十、以備火災。恆使力人持兵守家。大臣、使長直於大丹穗山造桙削寺。更起家於畝傍山東、穿池爲城、起庫儲箭。恆將五十兵士、続身出入。名健人曰東方儐從者。氏氏人等入侍其門、名曰祖子孺者。漢直等全侍二門。
(冬十一月、
・⑹概略
冬十一月、
・⑹解説
上宮家を滅亡に追いやり、蘇我氏の権力も絶頂を極めながらも自身等の生命の危険も感じていたという事でしょうか。外出時に常に五十人の兵士を率いるのは流石に大袈裟な描写と思えますが、当時の砦の詳細な描写は貴重な資料で参考になります。
次稿では時代の流れに沿って一旦、中臣鎌足・中大兄皇子等の密談についての話を挟み、その次の稿で再び蝦夷・入鹿親子について取り上げたいと思います。
◇参考文献
⑴『国史大系. 第1巻 日本書紀』経済雑誌社 編
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991091/212
『日本書紀 : 訓読. 下巻』黒板勝美 編 岩波書店
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1107125/69
⑵『国史大系. 第1巻 日本書紀』経済雑誌社 編
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991091/214
『日本書紀 : 訓読. 下巻』黒板勝美 編 岩波書店
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1107125/71
71・72コマ
①及び*,**『史料による日本の歩み 古代編』 関晃・井上光貞・児玉幸多 編 吉川弘文館 66ページ
⑶『国史大系. 第1巻 日本書紀』経済雑誌社 編
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991091/215
『日本書紀 : 訓読. 下巻』黒板勝美 編 岩波書店
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1107125/73
⑷『国史大系. 第1巻 日本書紀』経済雑誌社 編
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991091/215
『日本書紀 : 訓読. 下巻』黒板勝美 編 岩波書店
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1107125/73
⑸『国史大系. 第1巻 日本書紀』経済雑誌社 編
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991091/215
215・216コマ
『日本書紀 : 訓読. 下巻』黒板勝美 編 岩波書店
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1107125/73
73・74コマ
②『日本書紀(下)』井上光貞・監訳 笹山晴生・訳 中公文庫 251ページ 注⑼
⑹『国史大系. 第1巻 日本書紀』経済雑誌社 編
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/991091/218
『日本書紀 : 訓読. 下巻』黒板勝美 編 岩波書店
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1107125/76
76・77コマ
③『史料による日本の歩み 古代編』 関晃・井上光貞・児玉幸多 編 吉川弘文館 66ページ
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