記紀周辺の文献(海外)

 日本最古の文献である記紀が書かれたのは八世紀なので、古い記述程信憑性が薄れていくのはやむを得ない事であり、古代史を学ぶ上ではより古い中国の歴史書も頼らざるを得ません。また、当時の風俗を知る為の貴重な史料となっています。


 記紀の時代の日本古代史研究を補完する主な中国の文献を時代順に挙げてみます。


『漢書』巻二八 地理誌・第八下

『後漢書』巻八五 列伝・東夷・倭

『三国志』巻三〇 魏志・東夷伝・倭人

『晋書』巻三 武帝紀

『宋書』巻五 文帝紀

『南斉書』巻五八 列伝・東夷・倭国

『梁書』巻五四 列伝・諸夷・倭

『隋書』巻三 煬帝紀

『北史』巻九四 列伝・倭

『南史』巻一 武帝紀

『旧唐書』巻一九九 列伝・東夷・倭国・日本国


 上記の中で特に重視されているのは『後漢書』、『三国志』、『宋書』、『隋書』、『旧唐書』となり、その間の史書は日本と交流が無かった時代の為なのか、大体前時代の史書と異曲同工の為、史料的価値は下がります。(『梁書』だけは記紀の天皇家の系図を否定する材料に都合よく利用されているきらいがありますが……。)


 以下に現代語訳があるか、お勧めの書籍を挙げます。



◇『新訂 魏志倭人伝・後漢書倭伝・宋書倭国伝・隋書倭国伝 中国正史日本伝(1)』石原道博編訳 岩波文庫


 主に日本と交流があった時代の史書の翻訳と解説、及び、各時代の原文を掲載しています。コンパクトに纏まっているので読みやすいです。



◇『倭国伝 中国正史に描かれた日本』 全訳注 藤道明保・竹田晃・景山輝國

 講談社学術文庫


 こちらは倭の記述だけでなく、時代によっては朝鮮諸国の記事が書かれている為、比較や古代朝鮮について調べるには便利です。



◇『中国正史 倭人・倭国伝全釈』中央公論社 鳥越憲三郎


 こちらは『後漢書』、『三国志』、『宋書』、『隋書』、『旧唐書』以外の倭人・倭国伝の詳細な解説が付いている私が知る限りでは唯一の著書です。


 鳥越氏の持論である彼の有名な葛城王朝説や物部王朝説の記述さえ無視すれば、文化人類学者らしい他の著書と違う視点は参考になると思います。


 個人的には鳥越氏の著書がお勧めですが、ある程度知識をつけてから読むのが良いと思うので初学者は岩波文庫版が良いと思います。



◇◇



 次に朝鮮の文献ですが、最古の史書である『三国史記』でも12世紀。『三国遺事』に至っては13世紀に書かれた史書の為、信憑性は薄いです。とは言え、神功皇后五年三月条の新羅の人質に逃げられた話の類話が『三国史記』新羅本記(第三、訥祇麻立干二年<西暦四一八>秋条に書かれており、広開土王(好太王)碑の記述を合わせて、古代の日本が新羅に対して優位に立っていた事を裏付けるのではないかと思います。


 『三国史記』『三国遺事』にみえる倭・日本関係の記事を纏まった史料としては以下の書籍があります。



◇『三国史記倭人伝 他六篇』 佐伯有清編訳 岩波文庫


 5世紀以前の記述の信憑性は薄いですが、日本との関係記事に纏められているので、解りやすいと思います。


 他に七支刀・広開土王(好太王)碑・高仙寺誓幢和上塔碑に記されている倭・日本関係の銘文等、古代の日朝関係を知る手掛かりとなる一次史料の掲載されています。




 また、古代史を学習していないとあまり知られていない事実ですが、


 代表的な文献に『百済記』『百済新撰』『百済本記』が断片的に引用されており、「日本」「貴国かしこきくに」等、潤色の疑いのある記事もあるとはいえ、現存しないこれらの三逸史は百済の史書として貴重な史料になっています。


 例えば『日本書紀』の「彦」と言う字は『百済記』では「比跪ひこ」と書かれ、五世紀の貴重な金石文である『稲荷山古墳出土鉄剣銘文』の「比垝ひこ」の字が似ている事から『百済記』が相当古い時代の文献に基づいている事が推測出来ます。




 次稿では今までご紹介させて頂いた文献の知識を踏まえ、先ず最初に読む事をお勧めしたい論文を挙げてみます。

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