第9話 夢のある時間


「見返す、ですって?」


 俺の言葉に、今まで憎しみの感情しか向けてこなかった彼女の瞳に、初めて、希望が生まれる。

 しかし、それはすぐさま消えて、「あり得ませんわ!」と返してきた。


「貴族と平民には実力に圧倒的な差がある。それはあの決闘のみならず、他のあれやこれやでも平民クラスの皆がよーく知ってることかしら!

 わたくし達は学校に入学できた、全員が貴族に勝てましたから。けれども貴族に勝てたのは偶然たまたまですわ!」



 ある者は魔力量で、貴族に勝った。

 その貴族は、貴族の中でもとびっきり魔力が低い者だったから。


 ある者は学力試験で、貴族に勝った。

 その貴族は、試験を面倒だとサボった奴だった。


 ある者は魔法で、貴族に勝った。

 その貴族は、相手が平民だと知って一発目を譲って負けた。


 他の平民も、似たような理由で、貴族に勝っている。

 しかしながら、相手の貴族があまりにも弱すぎた、相手にすらなっていない。



「そういった戦いですらないのに勝ったから、自分が強いと思えない。そういう事だろ?」

「えぇ、その通りよ」


 他の連中も、似たようなことを言っていたな。

 俺がマイラに勝った後に話しかけても、"貴族だから勝って当然、平民は一生負け犬です"みたいな態度で、俺との間に壁を感じた。

 それは俺を誘ったラスカ級長、それに俺に好意的な印象だったゲッタやマオマオなんかも、だ。



「ほんと、バカだろ。平民てめぇら」


 だから、俺はそう言ってやった。

 あまりにもバカバカしかったから。


「バっ、バカって……!」


 バカにバカと言って、なにが悪い。

 バカにはバカ、そうとしか言いようがないだろう。

 

「これは平民だから、という問題じゃないぞ。

 俺は"平民"だろうが"王族"だろうが、バカにはバカだと罵るだけだ」


 それは、俺が王族相手でも、普通に試験で倒したこと。

 そのことを考えれば、嘘でない事は分かって貰えるだろう。


「マイラ、お前の《雷神招来》は平民だからおかしいんじゃない、お前の魔法紋章の力だ。

 マイラの身体には、俺と同じ魔法紋章が入ってる」

「はいっ?! わたくしに、お貴族様と同じ力が?!」


 同じ力、というか、これは別に貴族に限った力じゃないからな。

 魔法を扱う者ならば全ての者が持つ力、つまりは魔法使いである限りは絶対に持っている力だと言えるだろう。


「詳しくは調べていないから分からないが、持続力がないはずの《雷神招来》から考えると。

 マイラの魔法紋章は、《威力を失くす代わりに、持続力が高くなる》というものだ。お貴族様たるオルトロース家では認められなかったとしても、実際は凄い力じゃないか」


 雷属性の魔法の弱点は、持続力のなさ。

 それを、マイラが発動すると持続力が高い力となる。


「もし仮に、その力を最大限に活かすことが出来れば、"永遠に持続する最強の魔法"が誕生するんじゃないのか?

 そう考えると、ワクワクしてこないか!」


 あぁ、実に素晴らしいじゃないか!

 永遠に持続する魔法だなんて、考えただけでも見て見たくてワクワクするんじゃないかな!

 出来れば、俺が代わりにやりたいくらいだよ!


「……ぷっ!」


 まだ見ぬ、マイラの魔法紋章の素晴らしさに心を躍らせていると、何故か当の本人が笑っていた。

 先程までの、憎むような視線はなく、ただ歳相応の少女の顔で。


「あなた、貴族って感じしないわね。どちらかと言うと、魔法の研究者?」

「まぁ、言いたいことは分かる」


 彼女の言うお貴族様ってのは、すっごく偉そうで、自信過剰で、平民を見下している連中のことだろう。

 俺は魔法第一主義だから、そんな人間関係とかは関係ないけど、彼らにとっては血筋こそが全てだ。

 そこでマウントを取りたくて、しょうがないんだろう。


「えぇ、だから・・・あなたの事は・・・・・・認めてあげる・・・・・・


 そう言って、彼女は俺に手を差し出してきた。


「平民クラスの一員として、一緒に頑張ろうじゃないの。グリンズ・・・・



 俺のことを貴族ではなく、平民クラスのグリンズだと彼女は認めてくれた。


 こうして俺は、マイラという俺を嫌っていたクラスメイトとも、仲良くなれた。


「(これで、ようやく5人か)」


 残るは、あと2名。


 俺の事を見ずに、というかどこか上の空の様子だった少女。

 そして、俺の事をマイラとは別の感情をこめて、敵視していた少女。


 あと2名も、きっちりと、俺と仲良くなってもらって、平民クラス全員の力を合わせて、この危機を乗り越えようじゃないか!

 平民クラスをぶっ潰そうとする、貴族連中の思惑からよぉ!


「(卒業資格を手に入れて、三男だからという理由で追放されるということを回避するためにも!)」




「……ねぇ、ところでグリンズ」


 先程までの憎しみとは打って変わって、ある程度の男女として友情が成り立つくらいの距離間で。

 マイラは、俺に質問する。


「魔法はあんたが得意だってことは皆もなんとなく分かったと思うわよ。あんな条件下で、きっちりと勝てる実力があるんだから。

 でも、先生もいないのに、学力試験はどうやって乗り切るつもりなのかしら?」



 ……うん、どうしよう。

 考えてなかったわ。


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【Tips】マイラ・オルトロース

 平民クラス所属、雷属性が得意な少女。貴族と平民の間に産まれた庶子であり、オルトロース家からは"居ないモノ"として処理されている

 その縁もあってか、貴族の全てを憎んでおり、グリンズへの風当たりも強かった

 お嬢様口調でとっつきにくい印象もあるが、実は世話好きで、ラスカ級長と共に週に三回のペースで教室の掃除を行っている


 魔法紋章は、"威力が下がる代わりに、持続力が上がる"【天秤】の紋章

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田舎貴族の流儀 ~魔法使いの田舎貴族が、平民クラスを立て直すようですよ!~ 帝国城摂政 @Teikoku_Jou

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