第8話 元貴族の時間
「なぁ、どうしてそんなに貴族を嫌うのかを教えてくれ。
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俺がそう聞くと、彼女はどこか憎むような視線をこちらへ向けていた。
貴族を嫌いだという時の、そういった時の視線で。
「なにを、言ってるのかしら? わたくしは、平民よっ!」
「普通の平民は、《~かしら》なんて気取った言い方はしないぞ」
「うっ! そっ、それは……!」
あと、魔法の知識もそんなに深くないし、【風起こし】の魔法なんて、平民がぱっと思いつくにしてはおかしい。
それに、魔法使いとしてあまりに熟練度が高い。
むしろ、あれで平民だったら、どうしようかなんて思っていた所だよ。
「あと、《それは……》って言い訳してる時点で、もうかなり危ないだろう」
「けどっ! 仮にわたくしが貴族だって分かったとしても、家名まで推測なんて出来ないんじゃないのかしら!? "オルトロース"なんて、パッと思い付きで出てくる名前じゃないはずよ!」
「それはまぁ、確かにね」
貴族か、それとも平民か。
それくらいは俺じゃなくても分かるだろうし、勘でだって当てられるだろう。
けれども、家名までは無理だろう。
なにせ、一言で貴族と言っても、公爵家から男爵家と地位も様々、その上で家の名前まで当てるとなるとその数は膨大なモノとなる。
いくらなんでも、適当に当てるにしては、選択肢が多すぎる。
「でも、だからこそ、わたくしは自分がそうだと認めたわけですけどね!」
そう、選択肢が多すぎる中で、ピタッと当ててきた。
だからこそ、隠すことは出来ないと判断したので、認めたのだ。
人はただの勘でも当てられることなら、偶然だと思って認めない。
けれども勘なんかでは絶対に当てられない事を当てられると、案外あっさりと認める者なのだ。
「だからこそ、あなたには説明する義務があるはずよ! わたくしが貴族である事を見破り、なおかつオルトロース家の者だと分かった理由を!」
そして、その理由を、知りたがる生き物なのだ。
「俺って、魔法が好きでさ」
しかし、"オルトロース家の者であることを知った理由"について尋ねたのに、俺が返したのはそう言う言葉だった。
案の定、マイラは納得できないって顔をしている。
どう考えても、こちらの言葉足らずなので、俺の方から言葉を追加して細くする。
「決闘の時、俺の魔法が植物魔法になるのは見ただろう。それが、今回の決闘の勝利ポイントだったんだから」
「…………」
言葉を返さず、頷くことで認める、ね。
貴族らしい、"そう見えたかもしれないけど、声には出していないから"みたいな態度だ。
嫌ってこそいるが、貴族である事は確からしい。
「俺の家、ベルクマン男爵家はそういう紋章を作ろうとしている貴族だ。全ての、あらゆる魔法を植物魔法と言う形で管理しようとする。
そして、他の貴族も同じことをやっているのだよ。案外と調べれば、そういう情報は出てくるものさ」
ベルクマン男爵家が特別なんじゃない。
「その中で、面白い命題を掲げている貴族が居た。
"雷属性の威力をさらに強める"などという紋章を作ろうとしている、オルトロース家という貴族が」
他の貴族の紋章ってのは、自分には使えないモノだとしても、興味深いモノだ。
俺は、自分の家の紋章こそが最高だと信じているが、他の家の紋章もどういう思いで作られたのかと考えると、最高にワクワクする。
「オルトロース家の紋章ってのは、雷属性という魔法を強めようとしている。他の属性なんてどうでも良くて、ただただ雷属性だけを。
ワクワクこそすれど、なんでそういう道を選んだのか、俺には分からんね」
彼らからして見れば、雷属性こそが最強の力。
威力を上げ、絶対に相手に当たるほどの速度を与え、一撃で相手の意識を刈り取る。
そんな一撃必殺的な死神のような領域、それがオルトロース家が目指す極致とのことだ。
「マイラ・オルトロース、君はその紋章の亜種。
持続力を減らすつもりが、逆に伸びてしまった。威力は消えたけど」
----まぁ、それが原因で平民クラスにいるんだろうけど。
自分達が望んでいた力とはかけ離れた形になったから、追放する形で貴族から除名した。
「もしくは、貴族が平民に産ませた庶子……だったり?」
「……当たってる、わね」
適当に言ったつもりだったけれども、それが案外と正解だったらしく、彼女は「なんで分かったのかしら?」とかいう顔でこちらを見ていた。
「えぇ、そうよ。オルトロース家の領主が、下賤なメイドとの間に産ませた、自分達の望む力を持たずに生まれた女。それが、マイラ・オルトロースという女の正体よ」
それから、マイラは特に面白くもない話を始めた。
貴族とメイドとの間に産まれた自分が、彼らから認められなかったこと。
それでも認められたくて、魔法を学ぶも、不完全な雷魔法しか使えなかったこと。
だからこそ、貴族を嫌っている事。
「わたくしは元貴族なんてものじゃないわ、そもそも彼らにとっては存在すらしてないもの」
だからこそ、マイラは貴族を憎む。
自分を認めない貴族を、その種そのものを憎む。
「----わたくしは、負けなんか認めませんわよ。
決闘では敗北こそしましたが、あなたと一緒のクラスで頑張るなんて冗談じゃありませんわ」
----わたくしは、貴族を永遠に嫌い続けますわ。
恨むように、貴族である俺を見る彼女に対して。
「そうか、なら貴族を見返そうじゃないか。
他ならぬ貴族である俺の力を使って」
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【Tips】庶子
本妻以外の女から産まれた子供の事。貴族社会においては、メイドや村娘など平民の女との間に産まれた子供を指す
一般的に子供として認知していないために家名を名乗らせず、優秀であれば辛うじて家臣の一人として取り立てても良いかなーくらいの存在
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