第7話 貴族魔法の時間


「お礼として、俺も全力全開で相手しようじゃないか」


 俺はそう堂々と宣言したのだが、貴族を毛嫌いしているマイラには侮辱に思えたらしい。


「ふんっ! 自分が不利だと思ったら、条件を破って、強い魔法で対抗?!

 これだから、貴族ってほんとう、嫌いかしら!」


 俺に吐き捨てるように言葉を投げつけ、自分は【雷神招来】の呪文を詠唱している。

 それも、一度ではなく、二度も、三度も、重ねがけをして。


「(次で勝負を決める気だな)」


 彼女の力なら、重ねがけをすれば、俺の【風起こし】くらいじゃあ、相手にはならないだろう。

 威力がない【風起こし】の魔法なので防ぐこともできなければ、避ける事も先程の感じからすれば無理だ。


 ----だから、貴族の魔法を使う。


 俺の周りを、先程までとは比べようがないほどの濃い魔力が覆う。

 その魔力量に、思わずマイラは身体を強張らせて、見極めようとしていた。


 そうだ、それで良い。


「いきなり魔力の量が……! あなた、いったいなにを……」

「【風起こし】の魔法だ! 条件通り、な!」


 ただし、貴族用にアレンジした魔法だがな!



「《強き風よ|我が前に現れ|力を見せよ》----」

「はっ! 豪勢に言い放っていましたが、結局は先ほどと同じ、詠唱じゃないかしら!」


 ビビって損しましたわ、マイラはそう言っているかのように緊張をほぐす。

 そして、そのまま【雷神招来】を重ねがけした状態で、拳を強く握りしめて殴り掛かる。



「これで、おしまい、よっ! 【雷神招来】ー《掌底》!」

「----|力を見せよ》、【風起こし】/【ベルクマン】!」



 瞬間、マイラの身体を緑色の蔦が絡みついていた。

 いきなり現れた蔦は、マイラの身体を動かないように絡めていた。


「蔦?! このクソ貴族、別の魔法を?!」

「動けなければ、【雷神招来】という身体強化魔法も意味ないだろう? それと、この魔法は、この蔦の魔法は、【風起こし】だぞ?」


 そう、あの風を発生させるだけの【風起こし】の魔法だ。


「どうして、【風起こし】の魔法で、蔦が出んのよ! おかしいでしょうが!」

「それが貴族の魔法、って事だ」


 言っただろう、ちゃんと詠唱で。

 【風起こし】の後に、【ベルクマン】と俺の家の名前を。


「普通の、平民でもしっかりと練習と学習さえすれば使えるようになるのが、普通の魔法だ。【雷神招来】やら、【風起こし】の魔法やらの、普通の魔法。

 けれども、この【ベルクマン】----今の蔦の魔法は、俺だけの魔法だ」


 そう、俺だけの魔法。

 男爵貴族である【ベルクマン】の一族が作り上げた、"全ての魔法を植物魔法へと変える"力。


「魔法と言う素晴らしい力に、干渉できる凄い力。それが貴族だけが持つ紋章の力だ」


 だからこそ、貴族は凄いのだ。

 魔法という、超不可思議の領域を、己の支配下に置いて制御する。

 これこそ、貴族の真骨頂---魔法紋章だ。


 ----さぁ、マイラよ?

 ここからどのようにして逆転する?


 お前を縛っている魔法の蔦は、俺の【風起こし】の魔法を強制的に蔦にしたもの。

 蔦のようにしっかりと絡んで逃げられないようにしているが、その本質は風。


 絡まっているが、触れる事の出来ない、この魔法の蔦。


「さっきから【雷神招来】しか使っていない、いや、その魔法"だけしか・・・・"使えない、そちらに勝ち目があるのか?」



 彼女は悔しそうに顔を歪ませ、けれども意外にあっさりと、負けを認めるのであった。



☆ ☆ ☆



 こうして、俺とマイラの魔法の対決は、俺の勝利と言う形で幕を閉じた。

 この対決を観戦していた平民クラスの他の皆にも、俺の魔法が凄いということは、俺が魔法に置いて優れた立場であることは伝わっただろう。


 他のクラスメイト達も俺の勝利に納得して、茫然と敗北を受け入れきれてない彼女を残して、教室へと戻って行った。

 外は真っ暗、今頃は下校している頃だろう。


「(これで、俺の勝利って訳だ。

 まぁ、だからと言って、俺に教わりたいとは思ってくれなかったみたいだけど)」


 まぁ、植物魔法と言う、貴族の俺しか使えない魔法を見せられて、「自分も彼に学べば強くなれるかも?」とは思えないだろう。

 どちらかと言うと、平民である自分達と、貴族との差を見せつけられただけ。

 そう思っているヤツの方が多いんじゃないだろうか?


「(観戦した反応を見る限り、俺に好意を向けてくれてたヤツは----4人)」


 教室まで俺を連れて来てくれた、ラスカ級長。

 教室で俺に好意的に話しかけてくれた、大男ゲッタ。それと、眼鏡で可愛らしい男の娘マオマオ。

 そして、俺が魔法を使って勝ったのを見て、興味を示した女生徒が1人。


 結局として、今回の戦闘で俺が得たのは、クラスメイト1人分の信頼……にも程遠い興味心だけ。

 割に合わないだろう、これは。


 クラスメイトはまだ3人もいる。

 半分は仲間として引き込んだとみるべきか、それともまだ半分も居るとみるべきか。


「それに、あなたもちゃーんと仲間として迎え入れませんとね」


 と、俺はいつまでもむくれて、こちらを毛嫌いしている彼女----マイラの顔を見る。


「ふんっ! あなたが勝ったからと言って、わたくしがあなたの仲間になるだなんて思っているなら、筋違いかしら!

 わたくしは、決してお貴族様なんか、認めないのかしら!」

「…………」


 こりゃあ、ゴブリンに侵される前であっても、考えを改めそうにない感じだ。

 まぁ、彼女は貴族が大嫌いというスタンスを取り続けているからな、最初から。



「なぁ、どうしてそんなに貴族を嫌うのかを教えてくれ。

 ----貴族の、マイラ・オルトロースさん?」



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【Tips】魔法紋章

 貴族が持つ、魔法を変質させる力。魔法と呼ばれる超不可思議の領域にあるこれらを、自分達にとって都合が良い状態に持って行く、触れる事の出来ない媒体

 一代で自分の望む姿になるのは到底不可能なため、貴族は長い時間と絶え間ぬ血縁を繋ぐことで、自分達が望む姿へと近づけようとする

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