第6話 平民魔法の時間

「行きますわよ!」


 決戦の合図が鳴ると共に、マイラは動き出す。

 彼女の周りに魔力が集まっていき、身体全体が黄色く光り輝いていく。


「《雷よ|我が身に宿りて|身体を強化せよ》、雷魔法【雷神招来】!」

「身体強化の魔法、か」


 射程距離が長めの魔法が多い、遠距離魔法がわよ!」


 決戦の合図が鳴ると共に、マイラは動き出す。

 彼女の周りに魔力が集まっていき、身体全体が黄色く光り輝いていく。


「《雷よ|我が身に宿りて|身体を強化せよ》、雷魔法【雷神招来】!」

「身体強化の魔法、か」


 射程距離が長めの魔法が多い、遠距離魔法だけは豊富な"雷"属性の魔法。

 その中で、肉弾戦の時に使われる"雷"魔法、それがこの身体強化の魔法だ。


 全身に雷を纏わせて、身体能力を一時的にアップする魔法。


「(いい魔法の選択だな、だが舐めすぎじゃない?)」


 マイラの魔法の選択にちょっとだけ驚いて感心したが、それだけだ。


「《強き風よ|我が前に現れ力を見せよ》、風魔法|風起こし《ウインドファースト》!」


 俺は条件として提示された魔法、風を出す【風起こし】の魔法を使って----距離を取る。


「----っ?!」

「【風起こし】は喚起する魔法じゃない、一定の方向に風を出す魔法だ」


 今、俺はその魔法を使って、自分の身体を後ろへと押し出したのだ。


「----この距離、そう、風でちょっと後ろへ下がるくらいが良いのだ。その【雷神招来】という魔法の弱点だ」


 魔法は便利だ、だが万能じゃない。

 全ての魔法には、良い所と悪いところが存在する。

 【風起こし】に"威力がほとんどない"という弱点があるのと同じように、【雷神招来】にも弱点がある。


 そう、それは"持続力のなさ"。


「(ほかの属性魔法にも身体強化の魔法はある。だが、それぞれに長所と弱点がある。

【雷神招来】は突発的な一撃は脅威だが、弱点として当たる前に魔法が解ける)」


 正確には、相手にぶつかる前に身体強化魔法が切れてしまうのだ。

 射程距離の範囲が広い"雷"属性の魔法は、総じて持続力が短いのだが、その弱点が故に、身体強化に応用すると、相手に届く前に強化が解けるという事態になっているのだ。


 故に、この魔法は距離を近づけるために地面を蹴って近付く、あるいは近距離で発動して殴るかのいずれかしか、活用方法がない。


 使い所が難しすぎる、身体強化魔法。

 それが、【雷神招来】という"雷"属性の身体強化魔法である。


「(だから簡単に、距離を取るだけで攻撃を回避できる)」


 威力がない【風起こし】の魔法で、ほんの少し距離を取るだけで、相手の攻撃を回避できる。


「ふふ~ん! これでだいじょ----ウグワーッ!」



 油断していた俺は、吹っ飛ばされてしまっていた。

 どぉんっ、俺の身体に強化されたマイラの拳がぶつかっていたからだ。


「~~~~っ! おっ、おかしい! 完全に当たる範囲から離れていたのに!?」


 どうなってんだ?

 どうして、【雷神招来】で、あの距離であの威力が?


「来ないなら、こちらから行きますわよ」

「----?!」


 戸惑っていると、雷を"まだ・・"纏っているマイラが、俺に向かって攻めてくる。


「侮り過ぎたかっ!」

「いまさら、後悔したところで! わたくしの魔法には、敵いませんことよ!

 《雷よ|我が身に宿りて|身体を強化せよ》、雷魔法【雷神招来】!」


 マイラは再び、さっきの【雷神招来】を再び詠唱する。

 弱りかけて小さく消えかけていた、雷だったが、再びマイラの身体にチャージされていた。


「(なるほど……)」


 恐らく、彼女の魔法は、"不完全"だ。

 本当に【雷神招来】が決まっているのならば、防御魔法もしていない俺なんか、意識が飛んでいてもおかしくはない。


 恐らくは通常の【雷神招来】とは違い、彼女が使っている【雷神招来】に威力はない。それか、威力が弱い。

 その代わりに、持続時間がほんの少し長いのだろう。

 少なくとも、侮って後退した程度の俺に、一発当てるくらいには。



「どうかしら、わたくしの【雷神招来】は? 教科書通りじゃない、平民の魔法の味は」

「確かにな」



 舐めていた、平民なんかなら楽勝だと思っていた。

 なにせ、あんなに自信満々だった王子の魔法ですら、期待外れも良い所だったから。

 それだから、平民と言うだけで、最底辺のクラスに所属しているというだけで、コイツラは自分が指導するしかない弱者の集団だと思っていた。


 違う、コイツらは学園が望む《貴族であるか否か》というふざけたラインに到達していないだけだ。

 その実力は、ちゃんと指導すれば、腐りきった貴族連中にいっぱい食わせるだけの力がある。

 少なくとも、俺はその力を感じた。


「でも、これは嬉しいぞ」

「なにが、嬉しいと……?」


 いや、なに。

 王子なんかの戦いなんかよりも、よっぽど嬉しいぞ。



 なにせ、学園がバカにしている平民の魔法が、


 ----こんなにも独創的、だからな。


「お礼として、俺も全力全開で相手しようじゃないか」


 一味違う平民の魔法とはまた違う、一味どころか二味も三味も違う。

 本当の貴族の魔法、というヤツを。



==== ==== ====

【Tips】"雷"属性

 5つある属性の中で、最も射程範囲が広い属性。多くの魔法が遠距離から相手を攻撃するのに長けた魔法であり、身体強化魔法など近接系の魔法はあまりない

 その代わりに、持続力のなさが欠点としてあげられており、麻痺などの状態異常も他の属性の魔法に比べると持続時間が短い

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