EP.2 何であんたが会長やってんだよ

 連れて行かれた先はやはり生徒会室だった。

 俺の目の前には生徒会会長の木場幸太郎きばこうたろうが椅子でふんぞり返っている。イマドキこんな立ち振る舞いのやつもいるんだなとしみじみ実感していると早速木場が口を開いた。じゃがりこを片手に。


「いや~急に呼び出してごめんね」

「はあ」


 どうでもいいがじゃがりこを片手にごめんと言われても困る。何でこんな人が会長やってるんだろうか。

 すると俺のすぐ後ろで声が聞こえた。


「ちょっと木場くん、行儀悪いでしょ」

「おっ、夕羽ゆうは!いいところに~」

「!!」


 俺は自分の心臓が高鳴るのがわかった。顔が熱くなる。

 夕羽と呼ばれた彼女はこの生徒会の副会長を務める月島夕羽つきしまゆうはだ。そして、俺の片思いの相手でもある。


「佐倉くん、だっけ?今ちょうど人手が足りてなくてさ~」


 なぜ人手が足りないのかは今俺の隣にいるイケメンの彼から聞いている。生徒会の一人が問題行動を起こして辞めざるを得なかったからだ。まったくそいつは何をやっているんだ。


「いや、俺は無理っすよ……」

「と言われてもね〜。ほら、どうせすぐ体制変わるから君もすこしの期間だけやってくれればいいんだよ!」


 木場はそう言うが、だったらその少しの期間だけ待てばいいんじゃないのか?秋頃にいつも新体制を迎えることは俺も知っている。あと一ヶ月くらいだ。

 俺が思案にふけっていると、木場がとんでもないことを言い出した。


「実は、君がいいと言ったのは夕羽なんだ」

「へ?」


 俺は夕羽を見やる。すると夕羽も俺を見ていたようで目が合ってしまう。慌てて俺は目をそらす。


「……ま、ウソなんですけど」


 木場はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 こいつ、絶対に許さない。


「木場くん、嘘はよくないね」


 冷ややかな目で木場を見る夕羽。顔立ちが綺麗な分、怖さが引き立つ。


「で、どう?」

「どうって……」


 今の流れで首を縦に振ると思ったのか?

 ほんと、何であんたが会長やってんだよ。


「ちなみに、君の隣にいる彼も君と同じようにいきなり連れてこられた被害者なんだよ〜」


 いや被害者って自分で言っちゃうのかよ。ってことは、以前にもメンバーがいなくなるということがあったのか?

 またも俺がぼーっとしていると隣のイケメンが挨拶をしてきた。


「そういえばまだ名前を言っていなかったね。僕はこの生徒会で副会長をやってる3−Aの影山来久かげやまらいく。今木場くんが言ったように、僕もいきなり連れてこられてここに入ったんだ。特に断る理由もなかったからね」

「そうだったんですね」


 どうでもいいが本当にこの人は爽やかだな。さっきもここに向かう途中の廊下で多くの女子生徒が彼を見て目を輝かせていた。おそらく学校イチのイケメンだ。

 俺はそんなことを思い出していると、もう一つを思い出した。


「そういやここに来る途中、影山先輩に『』って言われたんすけど、どういうことでしょう?」


 俺が尋ねると、木場は「ああ……」と声を漏らした。

 その後の木場の説明はじゃがりこをはさみつつの説明でほぼ何を言っているかわからなかった。夕羽が要約した内容では、このような生徒会の緊急の人材募集には必ず2年以上のクラスから一つ抽選するようで、今回は俺のいる2−Eが選ばれたという。そこで、唯一部活動をしていなかった俺が選ばれたのだとか。なんでも、部活をしていない生徒のほうがより生徒会活動に従事できるだろうとの判断だったそうだ。

 とはいえだ。

 俺なんかが務まるのだろうか。いやそこじゃない。最大の問題は片思いの相手・夕羽がいることなのだ。普通に考えて、同じ空気を吸うこと自体も心臓がもたないというのに共に仕事ができるわけがない。


「やっぱり、無理です」


 俺は隙きを見てその場から全力ダッシュで立ち去った。たぶん陸上部も驚きの速さだっただろう。


「あっ、佐倉くん!!」

「影山くん。もういいよ」


 追おうとした影山を夕羽は制止した。


「最後、佐倉くんは私を見て走って行った。きっと私が苦手なんだよ。じゃなきゃあんなに拒んだりしないと思うの」

「そんな……」


 影山は少し寂しそうにする夕羽をただ見ていた。


 *


「ハァ……ハァ……」


 もう追ってこないだろ。とにかく疲れた。自分の出せる最大限の力で逃げてきた。

 もちろん俺が逃げた先は購買部。お目当ての焼きそばパンを――。


「ないッ!!?」


 馬鹿な。一足遅かった。たしか連れ去られる前に見たときはまだ5,6個は残っていたはずだ。全部買われたのか?

 全身の力が一気に抜けて膝から崩れ落ちる。

 俺がぶつぶつと文句を垂れていると、一人の女子生徒が話しかけてきた。


「はい、どうぞ」

「え」


 そこには俺に焼きそばパンを差し伸べる、見覚えのある女子生徒が立っていた。


凪咲なぎさ……」

「めっちゃ残念そうにしてて可哀想だったから。あげる」

「いいのか?」


 俺が聞くと凪咲は頷く。

 彼女は同じクラスメイトの佐々木凪咲ささきなぎさだ。

 一体どれだけ哀れな格好をしていたんだ俺は。


「ありがとう、女神」

「え?」


 俺は自分でも気づかないくらい自然と口から溢れてしまっていたようだ。凪咲はぷいっと身体の方向を変えて行ってしまった。

 ただのクラスメイトだったが、そのときだけは天使に見えた。

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生徒会には入りません! 神条 @kami8a_

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