第105話 黒竜ヘイラン

 属性竜の攻撃を受けて、上空へと回避行動を取ったオメガを、竜たちが追撃してくる。


「いきなり、随分なご挨拶だな。これは魔族達は外部からの訪問者を受け入れないという、意志表示で間違いないのか?」

「ジュウベエ。どうやらそれもちょっと違うようだぞ。島を見てみろ」


 俺がジュウベエに伝えて見させた、島の様子は廃墟だった。


「どういう事だ。この島は竜たちによって、魔人の文明が滅ばされたと言うのか?」

「解らないな。レオネア。どう思う?」


 そう問いかけてレオネアの表情を見ると、血の気が引いて真っ青だった。


「大丈夫か? レオネア。操縦は俺が変わる。ちょっと座って落ち着け」

「ゴメン。カイン。僕のママが居る筈の街がこんな状態になってて、ちょっとびっくりしただけだよ。もう大丈夫」


「レオネアさん。ここはカインお兄ちゃんに任せて、ちょっと休憩しようよ。お茶淹れるね」

 

 フィルに声を掛けられて、漸く操縦を俺に任せたレオネアが、フィルと共にリビングに降りて行った。


 入れ替わりで、騒ぎを聞きつけたガンダルフが艦橋にやって来た。


「面倒が起こったようじゃな。属性竜共が追っかけて来ておるが、どうするのだ?」

「あいつらってさ、知性は無いんだよな? ただの強い魔獣って言う認識でOK?」


「そうだな。エンシェントドラゴンであれば、会話も成り立ち人化をする者も居ると聞くが、属性竜だと強い魔獣という認識だ」

「ジュウベエがそう言うなら、遠慮はいらないな。シグマで撃ち落とす。竜の肉はまだ食べた事がないが、美味いんだろうな?」


「別次元の美味さだと聞くな。今日の晩飯が楽しみだ」


 オメガに迫って来ている竜は五匹だった。

 赤い火竜に対してシグマから氷のブレスを放つと、一撃で落下して行った。


 続いて青い色の氷竜に対して、雷のブレスを放つ。

 これも一撃で仕留めた。


 次は緑色をした風竜に炎のブレスを浴びせて撃ち落とす。

 残りは二匹。


 赤茶色をしたのは土竜、もう一匹は金色だがシグマに比べると青白い。

 雷竜だろう。


 有利属性は無いが、力押しでいけるか? と思った時だった。

 地上から新たな竜が舞い上がって来た。


 真っ黒な体躯で、大きさも先の五匹に比べると遥かに大きい、三倍はあるだろう。


「あいつは、エンシェントドラゴンだな。闇か重力を扱う存在だ」

「どうする?」


「話してみるか?」

「出来るのか?」


「レオネア。あいつと話せるか?」

「う、うん。任せてカイン。空中で静止して。僕はデッキに上がるから」


「大丈夫なのか?」

「竜種と話すのに丁度いいのが居るから大丈夫な筈」


 そう言ってレオネアがブリッジに戻り、更に梯子を伝って甲板へ上って行った。


召喚サモンサタン】とレオネアが叫ぶと、黒竜に全く見劣りをしない体躯の蝙蝠の様な羽をもつ異形が姿を現した。


 その前に一気に上昇して来た黒竜が姿を現す。


 サタンの姿を借りたレオネアが口を開く。


「何故攻撃をしてきた」

「こちらの、管理不行き届きだ。済まない。撃たれた者はその身体を引き渡す。残された者は見逃して貰えぬか」


 流石にサタンの姿には、黒竜もビビった様で下手に出てきている。


「この眼下に広がる街は、魔族の街であった筈だが何故廃墟になっている?」

「これは、正当なる戦いの上で我らが竜族が魔族に勝ったと言うだけの事だ」


「ここに居た魔族は何処へ行った」

「戦いで死んで行った者が半数。残りは魔大陸へと引き上げた」


「この島へ、魔族は残っていないのか?」

「反対側の海辺に少数が残っている。竜族との争いを起こさぬ事を条件にな」


「お前の言葉からすれば、我らがお前たちと戦い殲滅すれば、この島は我らの物で構わぬと言う事か?」

「それは…… 我らは正当なるこの島の守護者であり、この土地を取り戻しただけである」


「まぁ良い。こちらの条件を伝える。この島の古代遺跡の探索を行うので邪魔をするな。それさえ守れば、他へは一切手を出さぬ」

「古代遺跡を…… 解った。一つ頼みがある」


「なんだ」

「我を連れて行って欲しい」


 俺達もその様子を見ていたけど、連れて行けってどういう事だろ?

 エンシェントドラゴンであれば、行きたいなら自力で行けそうだけどな……


「ジュウベエ。どう思う?」

「解らんが、別にいいんじゃ無いのか? 連れてっても」


「あんなでけえの連れて行けるのかよ?」

「エンシェントドラゴンだし、人化出来るんじゃねぇのか?」


 俺はレオネアにOKと伝えた。


「良かろう。一緒に行くと言うなら人化は出来るのか」

「うむ」


 そう返事をすると、オメガのデッキの上に降り立ち、人の姿へと変わった。


 現れた人物は、黒髪を腰のあたりまで伸ばし、真っ黒でボディラインを強調するドレスを纏った、身長180㎝程もある女性だった。


 目鼻立ちも整い真っ黒な瞳は、吸い込まれそうな程に美しい。


 その姿を確認すると、レオネアもサタンを送還し、オメガの中へ黒竜を連れて戻って来た。


「女だったんだな。名前は?」

「ヘイランと申す。うちの若い者達が失礼した」


「俺達があの竜を殺した事に対して怒りは無いのか?」

「戦いの結果は、あくまでも自己責任である。糧となり弱かった自分を反省し、次の生を受けた時に同じ過ちを繰り返さぬように、魂の修行を積むのみであるのじゃ」


「食べちゃっていいのかよ?」

「勿論じゃ、美味いぞ」


 こいつらの、価値観が良く解んないけど、それならと言う事で、撃墜した三体の竜を回収する為に、地上へと降りた。


 俺の魔法の鞄に三体を収納すると、オメガへ戻る。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

美味いだろ? ~クランをクビになった料理人の俺が実は最強~ TB @blackcattb

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説