我は命なりて理由は不明
隅田 天美
ここに君がいる理由
「はい、今日はお客様を連れてきました」
職場で一番の責任者の声が響いた。
作業の手を止め、みな、声の主を見る。
その手には最新鋭の犬型ロボットがいた。
休み時間や帰宅時には皆、「かわいい」とか「賢い」と言って褒めていた。
なるほど、動作は可愛いし、様々な声(音)が出せる。
表情もある。
私も周りに合わせてはいたが、実は強烈なまでの違和感が胸の中にあった。
心の中でつぶやく。
「お前、何者だ?」
それは(私の心の中で=想像で)答えた。
「我は命なり」
帰り道。
私は柄にもなく「命」について考えていた。
途中、「うどん食いてぇなぁ」などと思ったりはしたけど……
例えば、あの可愛い犬型ロボットの部品ならどう思うだろう?
脳や心臓に当たるハードディスクやCPUなどを見せても、「かわいい」とか「賢い」とは褒めないだろう。
ただの電子部品である。
もっとも、生の脳や心臓を見せて気味悪ことはあっても、よほどのマニアでない限り「かわいい」とかは言わないだろう。
もっと違いを書けば、ロボットと人間の違いは『蘇生』だろう。
確かに今は医療技術などの発達で数種類の薬剤や電気ショックで心臓を動かすこと、医療再生ではノーベル賞を取った人もいる。
だが、未だ脳に関しては「植物人間」「脳死」という言葉があるように再生できないし、薬剤や電気ショックを与えても二度と蘇らない。
ロボットは部品を変えることが出来る。
最新鋭(なのかな?)の自動車では自動でカーナビがアップデートされるのだとか。(はい、未だにカーナビのない自動車で病院通いをしている人間です)
もっとも、OS(規格)が変わってしまえば「買い替え」なのかもしれないが……
どこまでも潜れる深い深い「命」の世界。
そこで、一回原点に立ち返る。
我々の根本の生命は単細胞である。
それらが生き残るためにミトコンドリアを取り込んだ。
ところが、このミトコンドリアは酸素をエネルギーにするが同時に体に害を及ぼすことがある。
我らが祖先はある作戦(?)に出た。
あえて「死」を作ることにより『進化』することを選んだのだ。
ほとんどの動植物は後世に自分の体験や知識をDNAと言うものに託す以外なかった。
それを覆したのが『人=ホモサピエンス』である。
人間はわずか数万年と言う間に地球上に広がり独自の進化をして地球上の頂点に立った(まあ、昨今の「コロナ騒動」を見るとそうでもないかもしれないけど)。
今、私がいる世界には多くの『進化』への犠牲があった。
そこで、多くの犠牲者を出した東日本大震災を思い出す。
私は、様々な意見や立場がある事を知っている。
安易に「頑張ってください」などという気はさらさらない。
ただ、「これからは自己責任」という気もない。
無知で無能な私に出来ることは自分の書いた小説やエッセーを読んで笑ってくれたらいいなと言う程度しかない。(薄ら笑い程度が丁度いい)
むしろ、救われたいのは私なのかもしれない。
いつか、そこが地獄か最後の審判か分からないけど、彼らの前に立った時に少しでも胸が張れるように、ちょっとでも「あー、お前。バカやったねぇ」と笑ってももらえるように、生きていきたい。
黙祷。
我は命なりて理由は不明 隅田 天美 @sumida-amami
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