星雫々

黒き白昼夢






今日の色は、黒。






濡れた羽を思わせる艶やかな漆黒。






あたしには、直観色覚がみえる。


朝めざめる瞬間に今日一日の色が脳裏に映し出されるのだ。


今日は黒だった。


絶対に最高の一日。何もかもレイヤードしたくなるような美しい黒が、朝6時59分に映し出された。


それはひどく短絡的なもので、色こそ映し出されるもののたったそれだけ。今日のコーディネートを決定づけるものでもなければ、目の前のものがその色に変わっていくのとも違う。





言うなれば占い。






何色だから凶とか大吉とかそういうのじゃないけど、あたしの今日を染めるカラー占いみたいなものだ。







直"感"のような感覚論ではない。





ここまで染めてきた色を重ねて、映して、溶かしていく。だからほんの少しだけいつも違う色がチョイスされている。プラスにして1、2、とミリ単位の世界ではあるが。




直観色覚が見える人は、100万人に1人。わたしのそれはモノゴコロついた時から日々を占ってきた。同じ現象が起こる人でも、人によってはなにか大きなきっかけを持って見るようになったという場合もある。


例えば、それは20歳の誕生日を迎えた瞬間だというケース、苦手だったピーマンが食べられるようになった瞬間というケース、流星を初めて見た夜からというケース。




満月の夜だけ現象が起こる、オオカミのような直観色持ちもいるという。



突然現象を持つ可能性があるということなら、その逆もありきということになる。


もしかすると、明日の朝起きたら、もう消えてしまい、一生直観色は見られないという可能性もあるのだ。



この現象を持っていることで得られる大きな利益がなにかと言われると首を捻る。多大な恩恵を受けられるのかと問われると頷けない。それしき。



ゼッタイオンカンとかいう、ガラスが割れる音までドレミで表現出来る抜群のセンスだとか、体育祭のリレーでアンカーとしてクラスを湧かせる優れた運動神経、あるいはどんな問題でもすらすらと解ける、世から必要不可欠とされるようなクレバーな脳内。




そんな魅力的な能力が羨ましくもある。




そういった能力は10人に1人、あるいは2人に1人は得ることが出来るという割合の能力だ。私にだってそれらが備えられていてもおかしくは無かったはず。


それでも私が持つのは、この、朝目覚める瞬間に脳裏にラッキーカラーのようなものが浮かぶ能力だけ。そのうえ誰の役にも立てないのだ。直観色を持つ者はワイドショーで取り上げられることも屡々。なのに、大それたプラスとして働かない。


とはいえ不利益という鬱陶しさがないだけありがたいものだ。これは、おそらく、特異体質であるがゆえのステータスである。




幼い頃は、黒が滲むような淡い墨色でしか無かった。だから怖かった。墨汁を薄めたような鉛色は、もうじき襲う夕立を思わせた。


だけど、今朝脳裏に浮かんだのは艶やかな黒だった。どこまでも深く、どこまでも艶めかしく、狂おしく、甘く、愛おしく、甘やかな黒であった。ああなんて、美しいのだろう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星雫々 @hoshinoshizuku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説