自称「直観仙人」

ケーエス

1:以下直感に代わりまして直観がお送りします

 ワシは竹内剛、76歳。直観だけで生きる男。


 今までワシは幅広い経験をしてきた。

 楽しいこともあった。

 つらいこともあった。


 だからこそ、全ての出来事に対して直観で対処

 できるようになったのだ。

 答えは全てワシの経験によって培われた潜在意識に

 よって導きだされる。


 そう、ワシは無敵、事実上の仙人なのだ!



 さあ、今日も存分にワシの直観力というものをみせつけてやる!



 ワシは傘を持たずに家をでた。天気予報では午後から

 雨が降るとかなんとかほざいておったがそんなわけはない!

 ワシの直観が今日は午後も晴れると言っているのだ! 

 ふざけるな! ワシはTVを粉砕し、家を出たのだ。


 こういう良く晴れた日は自転車に乗るのが一番だ。

 電車やバスなどという狂った奴隷船に乗ると、

 呼吸をするたび調子にのっているに違いない学生の集団が、

「うっせえわ。うっせえわ」

 とかいって騒いでおる。

 直観に従ってこないだ注意したら黙るばかりか、ニタニタ笑うばかり、

 ちっとも言うことを聞かん。


 そういうやつがコンビニのおでんをツンツンするのだと

 ワシの直観が言っておる。


 ホントロクな奴がおらん。もうそういう乗り物には乗らん。

 ワシは磁気定期券をへし折り、自転車に乗ったのだ。


 キキィィィ!!

「コラ! 危ないだろ!」

「チッ」

 向こうから来たスマホ歩きの男が危うくこちらに

 ぶつかりかけた。

 だのになにも謝らん。

 ワシの直観があったから事故にならずにすんだというのに、

 けしからん。

 だいたいスマホなんてガラケーで事足りるのにわけわからん

 アプリだのゲームだの余計なものを詰め込みやがって!

 なにがリモートワークだ! 

 会ってせえそんなもん。

 全部ワシの直観が「それは洗脳でっせ」と言うとるがな。

 あ、それは先生の格言か。

 とにかくワシはスマホなんぞ使わん! さっきのクズのように

 なるに決まっとる!


 そうだ、忘れておった。今日はテレビジョンのクイズ番組に

 参加するのじゃった……。その前に常備薬を飲むのも忘れずにな。


「さあ、始まりました。パネルクイズアタック5の二乗、春の

 ゴールデン稀代の老人3時間SP! ではクイズに参加する皆さんを

 ご紹介しましょう」


 他の参加者が誰であれやることは変わらん。聞かないでおこう。


「……さんはハーバード大学に留学したこともあり、……」


 ん? ハーバード? いやいや聞くな聞くな。


「……さんはマリアナ海溝を素潜りで制覇したとか……」


 マリアナ海溝を? いや聞くな聞くな。


「……さんは円周率の最期を知っているとか?」

「そうです、実は私が円周率の妹でして……」


 なわけないだろ、ああ聞いてしまった。

 くそう、最悪のスタートを切ってしまった。

 絶対にハワイ旅行と座るだけで痩せれる何かを手に入れたいのに!



「さあそれでは問題です」

「東南」

 今だ! ボタンを押せえ!


「おっとまだ東南しか言ってませんが竹内さん」

「……パプリカ」

「……正解です!」

 やった! やはりワシの直観は当たっているのだ。

 思い知ったか、この……ハーバードとマリアナの妹!


 そして、ワシはやり切った……ハワイと痩せれる何かを手に入れた!

 ワシは直観力のすさまじさを全国にとどろかした――。


 常備薬を飲み、自転車に乗って自宅に帰ろうとした。

 だが、ワシは初めて己の直観の敗北を悟った。



 雨だ。





 雨が降っている。





 嘘だ。





 嘘だ。







 嘘だ。






 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ。






 嘘だああああああああ!



 どこからともなくワシは雨の中自転車を置き去りにして

 走り始めた。


 まず土手を転がり、服を全部脱ぎ捨て発狂し始めた。


 全ての直観が湧き上がってきていた。


 でんぐり返しで移動し、近くで相合傘をしているカップルの

 まさにその傘を奪い取り、川に投げ捨てた。


『うわぁ! なにこのじいさん』


 啞然とする二人を尻目に土手を駆け上がり、近くのパン屋に乱入した。


「金を出せ! さもないと殺す!」


『ぎゃあああああ!』

 全裸の老人を前に言葉を失うパン屋の店員を張り倒し、胸をわしづかみに

 した後、厨房に入り、パンの生地をこねこねしている男に背後から殴り

 かかり、こねこねする用の棒を取って、その先っぽにかまどの火を

 つけた。

 レジに戻ってもう一回店員の胸をわしづかみにした後、そこらへんで

 売られているパンをひとかじりした。


「うまい!」


 店に入ってくる客と思われるばあさんにこねこね棒の火を浴びせた後、

 ワシは再び雨の中を走り始めた。


「うまあああああああい!」


 さっきの店のパンは本当に美味しかった。

 また来よう。



 さすがに76歳。陸上経験者だとしてももう

 体力が持たない、くそう……直観は体力には

 抗えぬ……。


 くそう、あともうちょっとでワシのおうちなんだ。

 あともうちょっとだというのに……


 サイレンの音がしてきたと同時に目の前がグラングランと

 してきた。吐きそうだ……。そうか、常備薬をまだ飲んでいない。

 雨だったから、初めて直観が外れたから……。

 そうか、発狂して……。ああ、やってしまった……。


 所詮直観だの理性を無視したバケモノだ。パッとそう思ったからって

 なんでもやっていいわけじゃない。


 ワシはもう自宅には戻れないだろう。

 今は電車や通りでみたクズよりワシの方が立派なクズなのだから――。


 ワシは近くにあった公園のベンチにもたれかかり、警察がやってくるのを

 待った。


 雨はその間も降り続け、ワシの裸体をぬらし続けた。





 2:以下自白に代わりまして報道がお送りします


 本日午後5時頃、無職の76歳、竹内容疑者が服を着ていない状態で現行犯逮捕された。

 竹内容疑者はTV番組パネルクイズアタック5の二乗、春のゴールデン

 稀代の老人3時間SPの数時間に及ぶ収録に参加した後、春の嵐の中、

 全裸で公然わいせつ、窃盗、脅迫、わいせつ行為、暴行、窃盗、わいせつ行為、窃盗、暴行などを次々に行った。

 容疑者の言動があやふやであったため、警察が家宅捜査をすると大量の

 覚せい剤が発見された。容疑者は覚せい剤を常備薬として常時使用しており、

 当時は禁断症状が出ていたものと思われる。

 容疑者が「先生」と崇めていた男も覚せい剤販売の疑いで逮捕された。


 3:以下直観に代わりまして直感がお送りします


 いや直観も何もただの犯罪者やん。


 4:以下直観に代わりまして直感がお送りします


 本人の直観以前にモラル無くて草。


 5:以下直感に代わりまして作者がお送りします


 ねえ今どんな気持ち?


 直観で書いたらこんなことになりました。

 この作品のことを嫌いでも、私のことは嫌いにならないで

 下ヒャイ!!


 なんであとがき書いてるかって?

 そりゃそうじゃん。

 むちゃくちゃモンスターみたいな作品生み出しちまったんだから。

 ちょっとはわが子をフォローしとかないとね。

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自称「直観仙人」 ケーエス @ks_bazz

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