直観名探偵の直観は幼馴染には通じない?

黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)

第1話

 俺は直観で瞬く間に事件を解決すると巷で有名な高校生探偵、九郎新二くろうしんじ

 名探偵は何時だって事件に巻き込まれるのは運命で、今日も通学路で二つ程事件に遭遇した。

 落とし物のノートから始まる国家を揺るがす重大事件と姉弟の運命を変えた難事件だったが……まぁ何時もの様に瞬時に解決、一時限目の途中で学校には到着出来た。

 首を傾げるかもしれないが、俺は昔から事件解決に時間を掛けた事が無い。

 事件現場や事件の概要を聞いた途端、聞いた事が勝手に頭の中で動き出し、勝手に口から真実が紡ぎ出され、あっという間に事件が解決する。

 それは落とし物探しや晩御飯のメニュー予想でもそうだ。

 俺にも何が起こっているかは解らない。

 俺にもどうやって解決しているかは解らない。

 ただ、この能力は謎に迷い惑う人達の力になっている。

 俺に解けない謎は無い!

 筈なんだけどなぁ………。



 「なんだよあーん、何か怒ってんのか?」

 「よく解ったじゃない、シンジのクセに……。」

 一限が終って直ぐ、俺の席に迫って来るヤツが居た。

 桃里杏とうりあん。何だかんだでもう12年くらいの付き合いになる幼馴染だ。

 どんな顔かって?見飽き過ぎる程見飽きた顔としかもう表現出来ない!

 どんな性格?杏は杏だ。杏としか言いようが無い。

 そいつが今、俺の席の真ん前で、仁王立ちして睨んでる。

 「この前の買い物の事、憶えてる?」

 「あーぁ、先週の日曜のなー。」

 「あの時、停電が起きたら居なくなってたよね?」

 「いやぁ、あん時は悲鳴が聞こえたからよぉ…。」

 「そのまま事件三連続で解決しに行ってたよね?私との約束を・忘・れ・て…」

 「ちょ、ちょっと一つ解決しようとしたら、そのまま二つ目の事件が付いて来てよ。二つ目解決したら三つ目に出くわしてそのままいつも通りの事情聴取だよ………………ワルカッタナ…………。」

 「それは良いの。その後、『埋め合わせする!』って言ったから………。

 で、月曜日にアイス奢ってくれるって話だったよね?」

 「あぁ、そうだったなぁ。」

 「で?何が起きたっけ?」

 「校舎内で三件、帰り道で二件事件がオキマシタ………。」

 「起きたじゃなくって『解決しに行った』でしょ?」

 「あぁー、まぁ、探偵ってのは事件を解決するものだからよ………。」

 「アイス屋さん、閉まっちゃったよね?」

 「いやーぁ、悪ぃ悪ぃ………」

 「で、昨日。お昼ご飯一緒に食べる約束したよね?

 で、どうなったっけ、シンジ?」

 杏がニコニコ笑いながら迫って来る。

 この脅し方は、何時ぞや出会った海外マフィアの脅し方ソックリ………!

 「ちょっと早退して海外ニイッテマシタ………………。」

 「で、今朝、一緒に学校行くって言ってたよね?」

 「…………………悪ぃ。」

 「シンジの…………馬鹿ッ!」

 右ストレートが炸裂した。




 「なー、カモ~。」

 杏が去った後、左頬を撫でながら前の席に声を掛ける。

 「どうしたのシンジ?」

 振り返って目を細める。

 鴨谷章幣。このクラスの良心である。

 「杏なんだけどよ~、おかしくねえか?」

 「ん?何が?」

 「最初は買い物に一緒に行け。次はアイス。その後は昼飯。そして今日、一緒に登校。

 普通こういう埋め合わせってどんどん条件厳しくなってくるモンだろ?

 何でアイツ、徐々にささやかになっていくんだ?」

 「シンジ………それ、本気で言ってる?」

 「ん-?そうだけど?」

 「その行動の共通点に気付かない?」

 「共通点?何が?」

 その言葉に頭を抱えたカモヤは一言。

 「……………………シンジ、お前、直観名探偵だよね?」

 それだけだった。





 シンジに一撃を喰らわせた杏の行方は何処かと言えば、友人の鈴鹿爽子の元へと出向いていた。

 「ねぇ、聞いてよ爽子(そうこ)!」

 「なーにぃ?また旦那の愚痴?」

 爽子はニヤニヤしながら私の顔を見ていた。

 「あんな奴、旦那じゃないって!

 日曜日の埋め合わせするするって言ってまたスルーされたんだから!」

 「アハハ…またか。あの主人公体質。」

 「ほんと、サイッテー!……破るんだったら最初っから約束しないでよね……。

 期待させないでよ………興味無いなら、最初から言ってよね………。」

 「ハァ……なんて顔してんだか…。

 まぁ、でも杏。シンジ君をフォローする気は無いけど、別に破ろうと思って約束してる訳じゃ無いと思うよ、彼。」

 「っ、何処が!」

 「あの探偵、別に巻き込まれたくて巻き込まれてる訳じゃ無いみたいだし…。(一緒に話してたら6件くらい事件に巻き込まれているのを見た経験アリ)

 そもそも、興味が無いならアンタの買い物に付き合おうなんて言わないでしょ?」

 「そりゃ…解ってるけど…………。」

 「付き合いはアンタの方が長いでしょ?怒らないでとは言わないけど、『アンタに興味が無い』なんて思わないであげてよ……ね、杏。」

 「………爽子」

 「何?」

 「ありがと…………。」

 「いーやー。(アタシもアンタらがイチャイチャしてるの見るのは楽しいからね……。)」



 再び、シンジとカモヤ。

 「何でシンジは事件に首突っ込むの?

 この前の買い物も事件無視してれば良かったんじゃない?」

 「いや……一回それをやろうとしたんだけどな………。」

 「けど?」

 「杏が放置していた事件に巻き込まれて怪我しかけたんだよ…………。

 俺だったら数秒で解決出来たんだ………それを放置したばかりに……な。

 だからさ、アイツの周りで起きる事件はどんな事件よりも優先して解決するって決めたんだよ。

 それで約束破っていたら話にならないよな……。」

 「……シンジ。」

 「なんだ?カモヤ。」

 「お前さ、事件以外の時の直観って、本当に、働かないよな。」

 「???????」

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