直観

きょんきょん

アラーム

 わたしはこれまでの人生で悩んだとき、自らの直観を信じて選択肢を選んできた。

 ただの山勘ではなく、確実に成功へと導いてくれる啓示ともいえる直感。

 その力には幼い頃から気づいていた。

 その力を理解した上で利用し、それなりに成功してきたつもりだ。

 

 理屈はさっぱりわからないが、わたしがある選択肢で悩んでいると、頭の中でアラームのようなものが鳴るのだ。

 時に静かに、時に激しく。人生に影響を及ぼすほどの選択肢になればなるほど、選択することによって得られるリターンが大きいほど、アラームも比例して大きくなるということは経験則で理解していた。


 受験だって就職活動だって仕事でたって、いつも自分の直観アラームに従って生きてきた。

 その結果一等地のタワーマンションに住むまでには地位を確立したけども、どうしてだか直観アラームが働かない分野がある。

 それは――についてだ。

 子供の頃から良いなと思った男子を見ても直観アラームは働かない。中学でもまったく働かず。

 その頃はまだ本当に大事な人は現れていないんだと、白馬の王子様を待つ気分でいられた。

 それが高校、大学と、直観アラームを信じて女子校に進むと、ますます出会いはなくなり、気づけば三十代に突入してしまっていた。

 選り好みしなければ男なんていくらでも寄ってくると思うのだが、それもプライドが許さなかった。

 これまで直観アラームが働いた男はいないとはいえ、適当な男を選んだところで人生のプラスにもならないだろうとなかば仕事に生きる決意を固めていた頃、彼と出会った。


 数年ぶりに参加した小学校の同窓会で、一人遅れて合流した男性に目が止まり、すぐに当時憧れていた奏汰君だと気づいた。

 胸の高鳴りは感じたものの、それでおしまいと思いきや、これまでどれだけ男を見ても反応しなかった直観アラームが脳内でけたたましい音量で鳴り響いたのだ。

 ――もしかして、彼がの人?

 あまりに熱い視線を送っていたせいか、隣のテーブルに腰を下ろしかけていた彼がこちらに気づき、なんと空いていた隣の席にやってきたのだ。


「夏希さんだよね。人目でわかったよ」

「奏汰君こそ、イケメンだからすぐわかったよ」

 当時憧れだった男子と再会し、しかも直観アラームが働いたことで私はすっかり舞い上がっていた。

 二次会も参加してお互いの連絡先を交換し、その日は別れた。

 それからも度々会う約束をとりつけ、三回目のデートで告白された。もちろん答えはOKに決まっている。


 その一連の話を親友に伝えると、もちろん直観アラームについては伏せてだが、話を聞いた親友はとんでもないことを口にした。

「その人、私の友達と結婚していた人だよ」

「え?そんなことある?」

 親友曰く、奏汰君の日常的な暴力に耐えられず逃げ出すように離婚したとか。

 すぐには受け入れられない話だった。これまでそのような素振りはみせていなかったし、バツイチだった話も聞いたことがない。

 親友に何度確認をとってもやはり奏汰君本人だという。

 それでも信じられなかった。

 だって、直観アラームがあれだけ最大級の大きさで鳴っていたんだから。


 彼を信じていたわたしは、本人を呼んで直接真意を訊ねてみることにした。

 きっと親友の勘違いだ。そうに違いない。キッチンでコーヒーを淹れている奏汰の背中は暴力をふるうようには見えなかった。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 うちにある適当な道具で淹れてくれたコーヒーは、いつもこ優しい味だった。

 心が落ち着き、平静を取り戻す。

 ――彼を信じよう。直観アラームを信じよう。


「あのね、聞きたいことがあるんだけど」

「うん?なんだい?」

「実は――――」

 一連の内容をすべて伝えると、彼の表情が一瞬にして無になった。


「なんだ、知られちゃってたのか」

「え?」

 すると、突然急激な睡魔に襲われ、私の意識は闇へと落ちていった――



 目を覚ますと、手足が拘束された状態でわたしは寝転がされていた。芋虫のように。わたしを見下ろすように奏汰君が立っている。金属バットを手にして。


「なんでこんなことするの?」

「夏希のことを愛してるからだよ」

「え?なにいって」

 いい終わる前にバットの風切り音が聴こえた。続いて何処かの骨が砕ける音が。

 それは終わることなく夜が明けるまで続いた――


 まだ、意識があるときに後悔した。


 彼と会ったときの、あの直観アラームは、ものだったんだ……と。

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直観 きょんきょん @kyosuke11920212

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