西東京での放浪

@bojiro

第1話

僕が向かおうとしている町は西東京にある。西東京は名前の通りに東京の西に位置している面積16平方キロメートル程度の大きさの都市である。その中にある田無という吉祥寺から北西に位置する町が目的地だ。季節は夏本番といった感じで、まだ感染症流行を心配するムードが多くの場所を占めている世の中ではあるのだろうが、

さっき自販機で買ったジュースを飲んだとき外した中国製のウレタンマスクを、日が暮れる前に顔につける事はなさそうだ。今日の目的地へ行くのであれば自分の家からは石神井公園のすぐ傍の通りを通過していくのが本来なのだが、

今回はその道筋から45度右側に撚(よ)れて大泉で車輪を走らせ、初夏の風を汗ばんだ肌で味わってから、かつて学園都市として計画されたものの、大学もないのに名前だけが残ってしまった大泉学園駅の北側の見慣れぬ公園で、まだ疲れたわけでもないが、自転車をとめてみた。この辺りは広々として閑散とした雰囲気を感じて、

まだ長居していたい気持ちになっていた。この近隣の住宅は広い庭と立派な植木を

持った見栄えする家が多かったが、この公園の内側に配置された木々は幹が短く、低い位置から枝別れしているものが多かった。とくに遊具もなく、土の上に石で出来た長方形の足場が短い間隔で並んでいた。

外国人らしき親子がいて、女の子が平坦な調子で話していたが、この公園に人が集まることはそんなに多くないのだろうな、と他所ものながら思ったりした。

目的があってきたわけではないので、がっかりもしなかったが、長居するほどの場所でない。家から遠くもないし、またふらっとこの辺りには来てしまうのだろうな。10分もせずは僕は施錠せず停めていたハンドルの左側の先端がわずかに欠けた自転者でまた西東京への道程に戻った。


白子川の上を通って西へ進んでいき、保谷へ入った。(当時は知らなかったが、ここはまだ東京のようだ)


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