つくえのせい
最近、在宅勤務が多くなってきた。
そうなると自宅の作業環境を改善したくなる。
まずは机を変えたいと思った。
そうは言っても、先立つものが乏しい。
私は、少し胡散臭い感じがする近所のリサイクルショップに立ち寄ってみた。
「ほう、意外とそろってるじゃん」
店の中には、会社役員が使っているような立派な机から、ゲーマー御用達のパソコンにぴったりの机、小学校でよく見る机、等々、いろいろな机が並んでいた。
その中から、奥の方に少し古い感じだけど、作りは、しっかりしてそうな机を見つけた。値段もお手頃である。
私は店長に声をかけた。
「すみません。あの机、もう少しよく見たいので、出してもらえます?」
「ほ~。今度はあなたが選ばれたのですね。」
「はい?」
「あ。いえいえ。お目が高い。この机は掘り出し物だよ」
近くで見てみたが、やはり良さそうだ。
埃っぽい感じだけど拭けばきれいになりそうだし、古いというより歴史を感じる良いもの感がにじみ出ていた。
「決めた。これください。」
「はい。まいどあり!お客さん、これはいい机ですよ。きっと役に立ちます。」
「はい。大きさもちょうどいいし、仕事や勉強に使えそうです。」
少しだけ、ためらいがちに店長が言った。
「ただ。買ってもらう、お客さんにこんなこと言うのはなんだけど、この机、少しだけ注意してね。とにかく欲を出しすぎないこと。」
「え?何のことですか?」
「うーん。これ以上は口止めされているので言えないんだ。」
なんか怪しい。まあ、この値段だし、どこかに問題があったら、自分で修理するのもありかな。なんて思いながら、結局、この机を購入することにした。
次の日、店から、あの机が運ばれてきた。
お。部屋にぴったりじゃん。店できれいに拭いてくれたのかな?
リサイクルショップで見たときより、きれいに思えた。
引き出しも問題ないし、天板がぐらぐらするわけでもなく、しっかりしている。
いや~、いい買い物したな。さっそく、使ってみるか。
そう言って、机に向かって椅子に座ったとき、それは現れた。
ぼわ~ん。
「私は机の精です。あなたの望みをかなえてあげます。あなたの望みはなんですか?」
「え?え?え?」頭が混乱している。
ピーターパンに出てくるような妖精が現れたのだ。
机の精が続けて言った。「あ。でも、人間の能力を超えるような望みは無理ですからね。」
「うーん。たとえば?」
「若返りたいとか。既に亡くなった人と話をしてみたいとか。道具も使わずに空を飛びたいとかね。あ。でも飛行機を使って飛ぶことはOKです。」
「そりゃ、当たり前だろ」
「少し落ち着きましたか。改めて聞きますが、あなたの望みはなんですか?」
ラッキー!望めば、叶うなんて、なんて幸運なんだろう。
いろいろと欲望が湧き出てきた。
お金持ちになりたい。モテたい。スポーツのスター選手になって活躍したい。
そこで、ふと、店長のことばを思い出した。『欲を出しすぎないこと』って言ってたな。このことか。
少し考えたあと、私はこう言った。
「国家資格の○○に合格したい」
私は社会人になってから、もう5年もチャレンジしている国家資格がある。なかなか合格できず、最近では、あきらめかけていた。
妖精が言った。
「国家資格の○○だね。わかった。かなえてあげる。」
ワクワクした。どんな魔法をかけてくれるのだろう。
自分が国家資格の○○を手にしている姿を思い浮かべ、ニヤニヤしていた。
「よし、では始めるか!」妖精がそう言った。
「お願いします。」と私。
「うん。だから、始めてください。」と妖精。
「ん?私が何を始めるの?」
「決まっているでしょ。国家資格の勉強」
「え?それは、叶えてくれるんじゃないの?」
「そうだよ。合格を叶えてあげる。そのためには勉強して。」
そうなのだ。この机の妖精は、願い事を叶えることが出来るまで、
その人に机を使わせる妖精なのだ。
『お金持ちになりたい』とか言ったら、お金持ちになるための勉強を毎日することになっていたかもしれない。想像もつかないけど。
『モテたい』なんて言っていたら、心理学、ファッションとかモテるための勉強をやらされていたかもしれない。こちらも想像もつかないけど。
スポーツ選手は机の学習では無理だったかもね。
もしも、欲を出した願い事をすると、その願いが叶うまで、ずっと机に向かうことになっていた。それに気がついたとき、ぞっとした。
この妖精、人間に勉強させることに関しては、たいへん長けていた。
ときに叱咤激励し、ときには癒しの言葉をかけ、ちゃんと日常生活や睡眠のことも考えてくれる。
おかげで、効率よく勉強もはかどり、どんどん国家試験の理解度が高まっていった。
そうこうするうちに、明日は、いよいよ国家試験の試験日となった。
「明日は大事な試験日だから、早く寝るんだよ」さすが机の精である。
「はーい」
次の日、余裕をもって試験場についた私は自信をもって試験に臨むことが出来た。
もちろん、試験の結果にも自信を持てた。
机の精に感謝いっぱいの気持ちで帰宅すると、机の精は居なくなっていた。
翌月、予想通り、国家資格の合格通知が届いた。
私は妖精が居なくなった机に向かって「ありがとう」と言った。
おわり
お話しのカゴ_2個目 light_2021 @light_2021
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