フィギュアランナー

アーカーシャチャンネル

本編

 誰もがこのニュースには目を疑った。少し前に『バズ』っていた話題すら、かすむような勢いには賛否両論のようだが。


 ニュース記事の内容としてはミニチュアフィギュアの自走する動画を紹介してるようだが、これがただのラジコンのような動きではない。


 機械的に歩くだけでは、テレビCMなどでも見かけるのでここまで『バズ』るのはあり得なかった。これには何かカラクリがある。


【まさか、走るとは予想外だ】


【走る? それ位であればラジコンロボでもできるのでは?】


【フィクションとノンフィクションをごっちゃにしてはいけない。今の技術で二足歩行で走るなんて】


【リアルのアスリートも、やがて――】


【もしかすると、スポーツ大会は全てアクションフィギュアが選手のリモート方式というのもあり得そうだな】


 動画のフィギュアは確かに走っていたのである。しかも、アスリートのようなフォームも披露していた。


 これであれば、普通に走る動画ではなくリアルのアスリートと対決させる動画が作られていても――という意見もある。


 しかし、この動画をアップロードした人物は明らかに今の環境でそれをやると炎上する、という事で否定的だ。



 コンビニの入口でスマホを片手に動画を見ているコートのフードをかぶった女性、彼女が動画のアップロードした人物である。


 彼女の左肩には、動画に映し出されていたものと類似するタイプのフィギュアが座っていた。サイズとしてはわずか三〇センチにも満たない。


(誰も、この動画をアップした意図に気づかないなんて)


 スマホを持つ手が震えているわけではないのだが、彼女は今にもスマホを握りつぶしてしまいそうな思いで反応を見ている。


 大体の反応が『リアルのアスリートと対決し、それに勝利する光景』を求めていたのだ。


 フィクションの技術がリアルの存在を無双する光景――それを周囲は希望しているといってもいい。


 しかし、彼女はそういった炎上商法や特定ジャンルのオワコン化を進めようとしているわけではないのだ。


(この技術は正しい運用をしなくては、やがて――)


 次の瞬間、彼女はスマホのつぶやきサイトアプリを閉じ、何か別のアプリを起動した。


 そのアプリとは、フィギュアを起動するためのアプリと言ってもいいものである。しかし、スマホ自体がコントローラーとなるわけではない。


「最新鋭の技術も、それを正しく扱えるものが正しく導くことで真価を発揮する」


 左肩に座っていた女性型フィギュアが動き出し、ジャンプしたと思った次の瞬間には、コンビニの屋根から隣の建物に飛び乗っていたのである。


 まるで、アクションフィギュアがパルクールアクションをしているような姿にコンビニの外で見ていた野次馬が反応し始めた。



 しばらくすると、そこに女性の姿はなかったという。フィギュアを囮にして自分が立ち去る時間稼ぎを――という訳でもない。


 実は彼女、プロゲーマーなのである。一部のマスコミがSNSの炎上事件に彼女が関与しているのでは、と週刊誌の特ダネ狙いで動いていたのだ。


 しかし、そうしたマスコミの方が逆に炎上することになったのは言うまでもないだろう。


 実際にプロゲーマーの写真を撮ろうとしたマスコミの一人が、野次馬の一人にSNS上で晒され、それをきっかけに炎上しているのだから。


(結局、どのようなきっかけでも炎上させようと『バズ』りを狙っている勢力がいる限りは……)


 彼女は思う所があり、この技術を封印しようとも考えていた。下手に動画が拡散し、軍事転用されては全てが終わりだから。


 この世界はあらゆる人命を奪うような行為が禁止されているのだが、それでもこの技術が悪用されるような事があれば……平和なフィールドを走る事なんてできないから。

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